本研究では水処理膜の完全性と微生物の関係を明らかにすることを目指している。近年の水資源の減少により、廃水の再生利用は水資源の持続的利用に向けた命題となっている。そこで注目されるのが膜ろ過技術だが、膜ろ過では膜閉塞が頻発することが深刻な問題となっている。この膜閉塞の主な原因の一つとされるのが、膜表面での微生物の増殖(バイオフィルム形成)であり、膜へのバイオフィルム形成によって処理効率や膜完全性の低下が引き起こされると考えられている。 水処理膜上へのバイオフィルム形成には広く受け入れられている機構が提唱されているが、実際にそのモデルに沿ったバイオフィルム形成が起こっているかについては、技術的な理由から実証されていなかった。前年度に水処理膜上のバイオフィルムを非破壊的に可視化・定量する技術の確率し、今年度は実際の廃水の中でも処理の難しい高濃度有機廃水である養豚場廃水を膜処理した際の閉塞について解析を行った。水処理再生の中核的技術である、膜分離活性汚泥法(MBR)と逆浸透膜(RO)ろ過を組み合わせたMBR-ROシステムによる養豚場廃水の処理を行い、その際に発生するMBRおよびRO膜での膜閉塞の解析・機構解明を試みた。その結果、水中に存在する細菌同士の捕食被食相互作用がMBRにおける膜閉塞に重要であることが明らかとなり、申請者らが新たに提唱した膜閉塞モデルが現実の水処理においても発生することを一部実証した。さらに細菌よりも大型の真核微生物についても網羅的な解析を行う手法を構築し、解析を行った結果、生物界を超えた複雑な食物網によって水処理膜の閉塞が引き起こされている可能性を示唆するに至った。
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