本研究の目的は、1)鳥取・岡山両県の県境に位置する人形峠におけるウラン鉱山から排出された放射性廃棄物(ウラン残土)残置問題の解決過程の詳細を明らかにし、2)これまでの産業廃棄物等の他の不法投棄事件や廃棄物処理施設の立地紛争との異同を明確化することを通じ、3)放射性廃棄物の保管・処理や移動・撤去をめぐる政策に示唆を与えること、である。 現在、福島原発の事故以降、各地で放射性廃棄物の中間貯蔵施設建設・立地をめぐって地域紛争が生じている。本研究は、残置状態から完全撤去へと至った放射性廃棄物をめぐる地域紛争のファーストケース=人形峠ウラン残土問題を総合的に分析し、政策的示唆を引き出すことを企図している。 1)に関しては、資料の収集とリストアップ化により、解決過程の検証に向けた基礎作業を完了することができた。 2)に関して、香川県豊島をはじめ不法投棄事件現場における原状回復事業の進展状況に関して実態分析を行ない、①当初の予定通りの環境浄化が必ずしも実現しておらず、原状回復のための事業がいまなお継続され、さらなる時間と費用が必要となっていること、環境の回復のみならず、地域全体の再生も大きな課題になっていることが明らかになった。有害性・不確実性・被害の長期性という点で、放射性廃棄物との共通性が明らかになった。 3)汚染土壌問題を抱え、帰還者による地域再生に取り組んでいる福島県南相馬市小高区において実態分析を行い、コミュニティ再生への行政支援と財政措置の重要性と課題を析出することができた。具体的には、①基金など、執行期間・使途に関して柔軟な財源の拡充、②予算の使途の決定権限の委譲など自治体内分権の重要性、③加害企業である東電からの財源調達の必要性、である。
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