平成29年度は、インドネシア中ジャワ州の、チーク生産地域の一つであるランドゥブラトゥン営林署管区において、現地調査を実施した。営林署全域の現場森林官に対し、個人や世帯の属性、違法行為への遭遇頻度と「見逃し」の経験の有無、村人との共同森林管理(PHBM)に関する認識等について、アンケート調査を実施した。多くの回答者に、違法な伐採、採取、放牧、耕作等の行為を、実際には取り締まらずに、見逃した経験があった。森林法規の杓子定規な適用ではなく、出来事の状況や村人との人間関係の中で、ある程度の裁量を持った法執行がなされていることが確認された。 村落部での視察からは、違法耕作をしている村人を、強制的に排除するのではなく、現場森林官が村で会合を開き、チークの苗木を配り、再造林に取り組むように説得していることが確認された。また、PHBMにおける林業収益の分配および使用方針について、現場森林官からは、「PHBMは村の問題だから、我々が口を出すことではない」という意見が聞かれた。 これらのことから、ジャワ島のチーク林帯では、アジア通貨危機での混乱および地方分権化以降、林業公社の村人に対する統制力が弱まっており、現場森林官の立場からは、そもそも森林法規を適用することが、困難な場合があると推察された。現代熱帯アジアにおける現場森林官の「裁量」は、政治経済的文脈の中で考察されるべきという、政策的示唆が得られた。 その他、インドネシアの森林管理ユニット(FMU)の活動計画書の分析に関する論文、およびインド2006年森林権法の法制度と実施過程に関する論文が、年度内に受理された。後者の論文では、インドでは、森林官が、在地レベルで、森林権の付与に抵抗しているという事例を示した。
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