本研究の目的は、アスベスト災害を対象事例として、労働災害や公害・環境汚染等の社会的災害に対して求められる公共政策のあり方を明らかにすることであり、特に過去の被害事例(大阪府泉南地域のアスベスト工場群)と現行のアスベスト取扱作業(建築解体工事等)を中心に議論し、災害予防の推進・徹底の政策を志向するものである。 本研究の最終実績として、特に大阪府泉南地域のアスベスト産業の地域的・歴史的な実態解明の遂行を進めてきている。すでに理論研究として先行して執筆・公表していた「社会的災害対策の実効性と当事者行動の制度経済学的分析」の続編(下)として、実態に即しての過去のアスベスト産業の災害予防と経済活動についての行動分析、過去の政府による労働衛生ならびに環境政策の検証や教訓等についての検討を行い、求められる公共政策としての社会的災害対策の展望を示すものである。 それとともに、制度経済学や行動経済学等に関連する学術書を中心とした文献調査に基づく理論的考察を続けており、人間の心理的側面からの災害に対する行動原理や教育やリスクコミュニケーションの手法を含めての環境政策を実行する上での課題といった点について、論文や講演等の発表を行いつつ継続的に取り組んでいる。その主な成果物である論文「ストック災害とリスクコミュニケーション」で分担執筆した部分において、行動経済学の観点や分析手法でのアスベスト災害を巡る考察を行った。短期的な損得勘定でアスベスト対策を実施しないことによる費用回避(対策不履行)が選択されやすい特徴が明確に捉えられる。規制遵守を徹底させるためには、当事者(所有者、業者、周辺住民等)を対象に政策的にアスベスト対策の重要性の認知を促進し、対策実施の合意形成を目指すことが求められ、その核として地域コミュニティとリスクコミュニケーションの論点が注目される。
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