研究課題/領域番号 |
16K16245
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
秋田 直繁 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (10708415)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | デザイン評価 / 薬剤包装 / チャイルドレジスタント / 誤飲防止 / PTP / パッケージデザイン |
研究実績の概要 |
本研究は、子供や高齢者の薬剤包装の誤飲に関する社会問題を解決するために、製薬業界が従来のプラスチックにアルミなどを貼り合わせたPTP包装を見直し、また包装ごと飲み込んでも体内を傷つけないフィルム製のESOP包装(Easy Seal Open Pack)などの導入を検討している現状を踏まえ、メーカーの視点だけではなく薬剤師などの医療従事者と子供や親などを含むユーザーの視点から「感性的な評価」を科学的に行う方法を構築し、評価実験を行うことで、PTP包装技術に制限を受けない、ユーザーの潜在的なニーズを反映した薬剤包装のデザイン指標を作成することを目的とする。 平成28年度は、子供の誤飲事故の実態を把握するための調査とその原因を詳細に分析するための実験を行った。具体的には、居住空間を再現した実験室で1歳~2歳の子供が薬剤包装を扱い、その過程でどのような行為を行い、開封できたか否かをビデオ観察により調査した。実験用サンプルにはプラセボ(有効成分を含まない薬)を入れた複数のタイプのサンプル(PTP包装とESOP包装)を用い、月齢の異なる子供の開封プロセスを比較・分析することで、薬剤包装のチャイルドレジスタント性(子供の開封しにくさ)を評価する方法を構築した。 また評価実験の結果、動画データより子供たちの特徴的な行為を抽出し、薬剤包装が開封される時の行為のパターンを分析した。更に各薬剤包装に対してチャイルドレジスタント性を高めるための要件を導き出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では平成28年度は、薬剤包装が持つべき能力(機能)をユーザーとメーカーの視点から抽出し、各能力の従属関係をKJ法で整理することで、薬剤包装を多様な視点から評価するためのデザイン評価項目を作成する予定であった。しかし本研究費採択後、消費者庁などから発信される子供の服薬に関する情報を整理した結果、研究計画変更の必要性が生じた。現在、薬剤包装に関する社会的課題の中でも特に薬剤包装のチャイルドレジスタント性の向上が求められており、多様な視点から評価を行う前に、まず薬剤包装のチャイルドレジスタント性を評価するための方法論の構築が重要であると判断した。 つまり、多様な視点から全体的な評価を行い、次に部分的な詳細評価を行うという当初の計画から変更し、個別具体的な視点から詳細評価を行った後にその経験を生かして全体的な評価を進める。 ここで、チャイルドレジスタント性が求められる背景を説明する。多くの場合、子供が薬剤包装から薬を取り出して誤飲してしまう事故は保護者の目が届かない時に生じるため、その実態が把握できていない。消費者安全調査委員会の報告によると、保護者へのアンケート調査より、子供の医薬品の取り出し方は「かじって取り出す場合」と「潰して取り出す場合」「容器本来が予定している開封の仕方で取り出す場合」があることが示されている。しかし、子供の行為の過程を詳細に分析し、薬剤包装のチャイルドレジスタント性を評価した研究は少ない。 以上のことから、研究計画の順序を変更し、重要性が高いと思われる項目から研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に行った薬剤包装のチャイルドレジスタント性の評価に関する研究成果を学会で発表する。また、その実験結果から導き出したESOP包装の改善要件を元にチャイルドレジスタント性を向上させたサンプルを作成し、再評価実験を行うことで評価方法の有効性を検証する。さらに、メーカーや薬剤師へのヒアリング調査を実施し、薬剤包装を多様な視点から評価を行うためのデザイン評価項目を構築する。
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