米は,炊飯時,内部の澱粉が表面に溶出し,その溶出した澱粉が表面を覆うことで層が形成される。炊飯直後の表面は,溶出した糊化澱粉が均一に分散しているため,滑らかで光沢がある。しかし,冷蔵保存するとその光沢は失われる。昨年度,炊飯米を冷蔵保存することにより,炊飯米の表面に数百ナノメートルの大きさの凹凸が生じ,光沢が失われることを明らかにした。凹凸の出現は,表面近傍の澱粉が再結晶化に伴い凝集し,不均一化することで生じると予想されたため,本年度は冷蔵保存中の糊化澱粉の凝集挙動を明らかにすることを目的とした。炊飯米の表層だけを分析することは難しいことから,表層のモデルとして,アミロペクチン,アミロース,米粉をそれぞれ糊化させたものを試料とし,冷蔵保存したときに生じる構造体の変化を極小角および小角X線散乱測定にて解析した。 極小角X線散乱測定において,アミロペクチン試料では,冷蔵保存時間の経過に伴いq値が0.02付近にブロードな極大が出現したのち,冷蔵保存時間の経過に伴いそのピークが低角側へとシフトした。小角X線散乱測定では,冷蔵保存により,q値が0.3付近にブロードな極大が出現し,このピークも時間経過とともに低角側へシフトした。これらの結果から,冷蔵保存時間の経過に伴い,凝集体が形成され,その大きさが成長することが明らかになった。また,表面形状に顕著な変化のなかった冷蔵保存開始から6時間のあいだにも澱粉ゲルの内部では,凝集体が形成され成長していることが示唆された。
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