研究課題/領域番号 |
16K16277
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
神野 歩 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (60757285)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 膵β細胞 / アミノ酸 / インスリン翻訳 / 高脂肪食 |
研究実績の概要 |
申請者は以前、高脂肪食負荷により膵β細胞でGCN2が活性化し、インスリンの翻訳が亢進することを明らかにした。一方、視床下部組織や肝臓においてはGCN2の有意な活性化は認められなかった。既報ではGCN2活性化のリガンドとして細胞内アミノ酸濃度の低下や非アミノアシル化tRNAの増加が報告されている。高脂肪食負荷マウスの組織においてこれらを測定し、GCN2活性化との関連を明らかにすることとした。通常食もしくは高脂肪食で飼育したマウスの血漿、視床下部、肝臓、膵島においてそれぞれのアミノ酸濃度を質量分析法により測定した。その結果、通常食下飼育マウスと比較し高脂肪食下飼育マウスの膵島においては多くのアミノ酸濃度が低下していた。一方、血漿や肝臓においては高脂肪食下飼育マウスでアミノ酸濃度が増加しているものが多く、視床下部においてはアミノ酸濃度の変化はほとんどみられなかった。次に、通常食と高脂肪食で飼育したマウスの膵島において、アミノアシル化tRNAの測定を行った。その結果、高脂肪食下飼育マウスの膵島においてアミノアシル化tRNAが全体的に減少していた。すなわち、高脂肪食下飼育マウスの膵島においては非アミノアシル化tRNAが増加していることが明らかとなった。これらの結果より、高脂肪食を摂取することによってマウスの膵島においてはアミノ酸濃度が変化し、それがGCN2活性化につながっている可能性が明らかとなった。現在までにGCN2はアミノ酸欠乏状態で活性化する分子として知られているが、インスリン翻訳が亢進する場合に膵島特異的にGCN2が活性化し、重要な働きを担っている可能性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単離膵島におけるインスリン翻訳の解析については以前申請者らがラジオアイソトープを用いずに測定する方法を確立し、現在も同様の方法を用いて測定しており、順調に再現性のある結果を得ている。単離膵島においてアミノ酸濃度やアミノアシル化tRNAを測定する方法については、今回質量分析法を用いて検討を行っている。現在のところ測定方法についてはほぼ確立しており、おおむね仮説を支持する結果を得ている。さらに検討数を増やすことにより今後高脂肪食下飼育マウスの膵島においてGCN2が活性化する機序を説明することが可能となると考えている。GCN2発現低下が高脂肪食負荷により膵β細胞に及ぼす影響を解明することを目的としているが、この目的を達成するうえで、上記のインスリン翻訳やアミノ酸濃度、非アミノアシル化tRNAの測定は非常に重要であると考えており、これらの測定方法を確立することが出来たことから課題の進捗状況はおおむね順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、高脂肪食負荷された野生型マウスの膵島においてはGCN2が活性化しているが、GCN2ノックアウトマウスにおいてはmTORC1シグナルが慢性的に亢進し、ネガティブフィードバックを介してインスリンシグナルが減弱化し、膵β細胞量が減少し耐糖能異常を呈することを明らかとしてきた。今後はGCN2欠損においてmTORC1シグナルが亢進するメカニズムを明らかにすることが重要であると考えている。申請者らはGCN2欠損マウスの膵島やGCN2ノックダウン細胞においてはGCN2の下流である転写因子ATF4の発現が低下していることを見出しており、これがmTORC1シグナルに影響している可能性を考慮している。ATF4下流分子の中にmTORC1シグナルを制御する分子が存在すると考えており、その検討を行う。 次に、実際にヒトにおいてGCN2をコードするEIF2AK4遺伝子に変異を有するとGCN2の機能が変化するかどうか、また、EIF2AK4遺伝子に変異を有するヒトにおいて耐糖能に変化があるかどうかを検討することとする。ヒトの血球を用いてGCN2の蛋白やmRNAを測定することを開始しており、今後EIF2AK4遺伝子の変異とこれらの関連について解析する予定である。さらに、正常耐糖能や境界型糖尿病のヒトにおいてEIF2AK4遺伝子の変異とインスリン分泌やインスリン抵抗性の指標に相関があるかどうかについては、現在までに行っている経口ブドウ糖負荷試験やグルコースクランプ法による解析を解析数をさらに増やす予定である。
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