研究課題
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は主にn-6とn-3に分類されるが、多くの国々においてn-6 PUFAの摂取過多、n-3 PUFAの摂取不足が問題視されている。本年度においては、妊娠マウスのn-6 PUFA高含有/n-3 PUFA低含有(高n-6/低n-3)飼料摂取が仔の不安行動に及ぼす影響とその作用機序を解析した。妊娠マウスにコントロール飼料または高n-6/低n-3飼料を投与し、生後からは両群にコントロール飼料を投与し、仔が成体に達した後にオープンフィールド試験および高架式十字迷路試験によって不安行動を解析した。これまで、これらの行動解析は1300ルクスという照度の高い環境において実施し、高n-6/低n-3群において不安行動の増加を見出していたが、本年度は200ルクスという照度の低い環境において実施したところ、不安行動に群間差は見出されなかった。これにより、高n-6/低n-3飼料摂取によって惹起される異常な不安行動は、ストレス負荷がかかった状態でのみ起こる可能性が示唆され、ストレス脆弱性との関連が考えられた。続いて、神経活動のマーカーであるc-Fosタンパク質の発現を、ドパミン作動性神経細胞において免疫染色法により解析した。しかし、高n-6/低n-3群におけるc-Fos陽性細胞数はコントロール群と同程度だった。c-Fosタンパク質の発現解析では、ドパミン作動性神経細胞の神経活動を断片的なタイムスケールにおいて解析することしかできないため、現在、不安行動解析中における細胞外ドパミン量を断続的に計測するため、マイクロダイアリシス法と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による解析に着手している。
2: おおむね順調に進展している
予定していた不安行動解析、c-Fos発現解析による神経活動解析、細胞外ドパミン定量解析のすべてに着手することができた。特に不安行動解析では、高n-6/低n-3飼料摂取によって惹起される異常な不安行動がストレス脆弱性と関連する可能性を見出し、PUFA摂取に伴う不安障害に関する重要な知見を得ることができた。
次年度においては、当初の計画通り、ウイルスベクターを用いたドパミン作動性神経細胞の除去による行動解析、ならびに発生解析を中心に行う。行動解析にあたっては、1300ルクス条件下でのストレス負荷環境において、これまで通りオープンフィールド試験と高架式十字迷路試験を行う。また、今年度に着手したマイクロダイアリシス・HPLCの解析も行う。
マウスの産仔数が少なかったため、飼料の購入量を削減することができたため。なお、これまでの解析から、本年度に見られたマウスの産仔数の減少は偶発的な事象であると考えられる。
発生解析に必要な抗体の購入費用に充てる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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