研究課題
低亜鉛血症は大腸がん発症のリスクとされているが、その分子機序は明らかでない。大腸がんの発症には慢性的な腸管炎症が関与する。申請者は先行研究において、種々の抗酸化酵素や食品による腸管炎症の抑制を報告してきた。一方で申請者は、マクロファージにおいて、細胞内亜鉛濃度の変化に伴い、インターフェロン応答型転写因子であるIRF5の細胞内局在が変化することを見出した。しかし、腸管炎症や大腸発がん過程におけるIRF5の機能に関しては不明である。よって本申請課題は、亜鉛もしくは亜鉛欠乏状態がMphの諸機能(炎症応答や貪食能など)に及ぼす影響について、その効果におけるIRF5の関与を明らかにし、IRF5を炎症制御に根差した大腸がん予防における新規分子標的として定義づけることを目的とする。今年度はマウス骨髄由来マクロファージ(mBMDM)を用いたin vitro試験を中心に行い、下記の2点について解析を行った。①亜鉛欠乏マクロファージの機能解析mBMDMを亜鉛キレーターで処理することにより、IRF5の標的遺伝子であるIL23p19の発現が亢進することを見出した。また、クロマチン免疫沈降法の結果より、IL23p19のプロモーター領域に存在するインターフェロン応答配列にIRF5が結合していることを見出し、さらにこの結合が細胞内亜鉛レベルに依存して生じることを明らかにした。②亜鉛欠乏に伴うIRF5核内移行に伴う分子機序IRF5は細胞質内において、COP9シグナロソームに結合していることが知られている。そこで、亜鉛および亜鉛キレーターの添加が、当該の結合に与える影響に関して、免疫沈降法を用いて評価した。しかしながら、mBMDMを用いた解析では、IRF5とCOP9シグナロソームとの結合を確認することが出来なかった。
3: やや遅れている
亜鉛欠乏に伴うIRF5核内移行に伴う分子機序の解析が難渋しているため。
次年度は、亜鉛欠乏が大腸炎および大腸発がんに及ぼす影響について、マウスを用いたin vivo試験を施行する。大腸炎モデルには、ハプテン誘導性であるトリニトロベンゼン誘発性大腸モデル、ヒト炎症性腸疾患に類似した病態を呈するリンパ球移入大腸炎モデルを用いる。腸管炎症の評価は、肉眼的・組織学的スコアリングや各種サイトカイン発現解析など、複数の指標に基づき行う。大腸がんモデルとしては、腸管における炎症病態を素地とした大腸発がんモデルであるazoxymethane誘発性大腸がんモデルを使用する予定である。さらに平成28年度に引き続いて、亜鉛欠乏に亜鉛欠乏に伴うIRF5核内移行に伴う分子機序の解析についても施行する予定である。具体的には、亜鉛キレーターの有無によるIRF5の翻訳後修飾の変化、およびIRF5の組換えタンパク質を用いたpull-down法を用いたIRF5結合タンパク質の解析を予定している。
本年度に実施した「亜鉛欠乏マクロファージの機能解析」について、当初の予定よりもスムーズに研究成果が得られたため。
同じく本年度に実施した「亜鉛欠乏に伴うIRF5核内移行に伴う分子機序」については、未だ望ましい成果が得られていない。そのため、当該繰越金を充填することで研究成果の進展を計る。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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