研究課題/領域番号 |
16K16284
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
吉田 潤 岩手医科大学, 教養教育センター, 助教 (20611007)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | falcarindiol / 機能性物質 / GSK-3β / インスリン / 糖新生 / セリ科植物 |
研究実績の概要 |
本研究は遺伝子変異酵母YNS17株の生育回復活性を指標とする新規な薬剤スクリーニング技術を用いて得られた食材由来の生物活性物質の新たな機能性に関する研究である。特に、セリ科植物やウコギ科植物に含まれるポリアセチレン化合物falcarindiol類の抗2型糖尿病作用に関わる機能性を解析し、その作用機序及び標的分子を明らかにすることを目的とした。 初年度は肝臓由来細胞株を用いてfalcarindiolの糖新生抑制効果と作用機序の解析を行った。はじめに、糖新生を惹起したラット肝臓由来細胞株H4IIEにfalcarindiolまたは既存の各種阻害剤を作用させたときのグルコース産生抑制活性を解析した。その結果、falcarindiol及び各種GSK-3β阻害剤の作用により糖新生誘導したH4IIE細胞のグルコース産生が濃度依存的に抑制された。このときのfalcarindiolの作用濃度はGSK-3β阻害剤BIOと同等であることが明らかになった。次に、ウエスタンブロット法でインスリンシグナル伝達経路やAMPK経路の主要分子の活性化に対する影響を調べた結果、falcarindiolの作用によりAkt活性化を介さないGSK-3β不活性化とAMPK活性化が認められた。同条件下におけるインスリンの作用では、Aktの活性化が顕著に認められるがAMPK活性がみられなかった。以上の結果から、falcarindiolの作用機序はインスリンとは異なり、GSK-3β阻害剤に類似していると考えられる。よって、falcarindiolの標的分子はGSK-3βである可能性が得られたことから、今後の標的分子解析において重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画課題としてあげていたfalcarindiolの糖新生抑制作用の検討とインスリンシグナル伝達経路の主要分子に対する影響については、ラット肝臓由来細胞株H4IIEにおいて詳細に解析できた。当初の予想通り、falcarindiolは直接的にGSK-3βを阻害している可能性が得られたが、グリコーゲンシンターゼ活性化に対する明確な影響は解析できなかった。今後はグリコーゲンシンターゼと各種転写因子に対する作用を検討する必要がある。ラット肝臓細胞に対する作用の詳細が明らかになったことから、さらにヒト肝臓由来細胞株に対する作用を解析し、ラット細胞における応答と比較検討する予定である。また、セリ科植物やウコギ科植物からfalcarindiolの類縁体の単離精製を継続し、その生物活性を解析する必要がある。さらに、AMPK経路に対する活性化作用も認められたため、AMPK経路活性化とGSK-3β阻害活性との関連性については、重要な知見が得られる可能性のある今後の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
ラット肝臓由来細胞においてfalcarindiol作用によりインスリンシグナル伝達の下流分子の応答と糖新生律速酵素の遺伝子発現抑制についての知見が得られたが、各種転写因子に対する影響はあまり明らかになっていない。また、ヒト細胞におけるfalcarindiolの作用をラット細胞と比較検討する必要がある。また、falcarindiolの構造類縁体でも同様の応答をするのかについて検討する予定である。 falcarindiolのヒト肝臓由来細胞における糖新生律速酵素の遺伝子発現抑制効果を検討するためにヒト肝がん由来細胞株HepG2を用いてG6PaseやPEPCKの遺伝子発現をリアルタイムPCRに手解析する予定である。さらに、HepG2細胞をファルカリンジオール加えた培地で培養し、ウエスタンブロット法でインスリンシグナル伝達経路とAMPK経路に関連した分子の活性化状態を解析する。また、メタボリックシンドロームフォーカストDNAマイクロアレイ解析試験にて、HepG2細胞を用いてメタボリックシンドローム関連遺伝子194種の発現変化を解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
より高活性なポリアセチレン化合物類縁体の有無を検討するために、セリ科植物やウコギ科植物からfalcarindiolの構造類縁体を単離同定して生物活性試験に用いる予定だが、単離精製途中であるために次年度使用額が生じた。また、ヒト肝細胞試験の実験検討中であるが、実際の解析実験は次年度に行うことから次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
乾燥したセリやウドをヘキサン抽出し、カラムクロマトグラフィーとHPLCにてポリアセチレン化合物を単離精製し、MSによる質量分析とNMRのスペクトル解析にて構造を確認する。この際に使用する、HPLC分析カラムとHPLC分取カラムの購入に使用する。また、ヒト細胞のグリコーゲン合成量を測定するために、グリコーゲン定量キットGlycogen Colorimetric/Fluorometric Assay Kitを購入する予定である。また、ウエスタンブロット法に使用する抗体を購入する予定である。
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