本研究の目的は、食嗜好形成の初期段階に着目し、嗜好形成を促進する食品因子を明らかにすることにあった。これまでに好ましい食品の摂取を繰り返すことで嗜好が形成され徐々に摂取量が増大することが明らかになっている。本研究において、実際にマウスに5%乳化大豆油7日間繰り返し摂取させたところ、摂取量は徐々に増えた。最終的に、マウスは5%の乳化大豆油を30分で4.5ml程度飲むようになった。5%との比較で、20%乳化大豆油を繰り返し7日間摂取させたところ、最終的な摂取量は3.0ml程度であった。一方、2瓶選択法で5%乳化大豆油と20%乳化大豆油を同時に提示すると20%乳化大豆油をより多く選択した。このことから、単純な摂取試験では、最終的な時間当たりの摂取量は、嗜好性の強さと関連しなくなることが明らかとなった。エネルギーが大きい食品は、摂取制限がかかってしまうためであると考えられる。 そこで本研究では摂取量に因らない嗜好形成過程の評価法の構築を試みた。開閉式のドアのついた3つのチャンバーからなる装置を考案し実験を行った。食用油脂を繰り返し摂取する際に、報酬獲得行動が増加する様子が観察できた。また報酬効果の高い被験物(20%乳化大豆油)は、低い被験物(5%乳化大豆油)に比して、その報酬獲得行動が速やかに増加することが明らかになった。この実験系により、ある食品を初めて摂取し、また繰り返し摂取する中で、嗜好性がどれだけ強く早く形成されるかを評価できるようになったと考えらえる。今後は、報酬効果を有することが明らかである油脂を中心に、その他の食品成分を添加して、その報酬効果の強さや嗜好背の形成に及ぼす影響を検討していく。
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