日本成人の科学リテラシーは、他の先進諸国と比べて著しく低い.しかし、この現状は問題視されてはいるものの解決には至っていない.また、そもそも現行の学校教育は科学リテラシーの習得を保証するのかという疑問もある.そこで、国内外の高校教育が科学リテ ラシー習得にどの程度寄与するかを解明することを目的として本研究を実施した.具体的には、学校の理科教育で広く用いられる教科書が認知的能力の習得を促すよう作成されているかを調べるため、日本およびカナダの高校で広く用いられる生物の教科書を研究対象とし、その教科書に含まれる設問が要求する認知的能力の段階を分析した.その結果、カナダの教科書では、ブルームの分類法により定義される第1~6段階までの幅広い認知的能力(1=知識、2=理解、3=応用、4=解析、5=統合、6=評価)が設問の回答に要求されるよう作成されたことが明らかとなった.一方、日本の教科書では、主に第1および第2段階、すなわち知識および理解のみが設問の回答に必要であることから、高次認知能力といわれる第4段階~第6段階(解析、統合、評価)の習得の促進を意図して作成されたようには見受けられないことが明らかとなった.
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