研究課題/領域番号 |
16K16333
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
高島 響子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 上級研究員 (10735749)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ELSI / データ共有 / 家族性疾患 / 遺伝情報の患者家系員への開示 / 守秘義務 |
研究実績の概要 |
昨年度から実施している、家族性疾患を対象とするゲノム研究における、患者及び患者家系員への倫理的配慮、並びに次世代シーケンス時代の家族性疾患研究における倫理的課題についての論点整理についてまとめ、論文に発表した(Takashima, 2018)。さらに、次世代シーケンス時代の家族性疾患を対象とするゲノム研究では、患者のみならず家族にとって意義を有しうる遺伝情報が明らかになる可能性があり、そのような情報を家族と共有することの倫理的・法的課題について検討した。近年、英国及びドイツにおいて、患者が遺伝性疾患に罹患しているという事実を患者家系員に伝えることについて、医師に責任を問う裁判の結果が出たことがわかり、両判例を含む、患者遺伝情報の家族への共有に関する医師の義務について文献調査を行った。その結果、遺伝情報の家系員への共有(あるいは開示)は、医師の患者に対する守秘義務及びプライバシーの尊重と、家系員に対する善行の間のジレンマ事例として、感染症等における、医師の守秘義務対公共の利益の保護及び他者危害の回避の間のジレンマのアナロジーとして検討されてきたことが明らかとなった。日本の法令や学会の規定においても、本人の同意なく患者の遺伝情報を含む医療情報を他者に開示すべきではないことが原則であるが、しかし患者家系員を含む第三者の利益を保護する場合、あるいは、第三者に重大な不利益を及ぼす可能性が高い場合には患者の情報を共有することが許容されうるとされた。これは、国際的な解釈ともほぼ一致する。しかし、具体的にどのような場合が該当するかは個別に判断しなければならない。世界の議論をみると、例えば英国では前述の判例を受け専門職団体が守秘義務に関するガイダンスの見直しを始めたり、また、近年の遺伝子解析技術の発展による遺伝情報の有用性の向上を踏まえた遺伝情報の家族間の共有の在り方を問う見解が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者の遺伝情報の家系員への共有に関する国内の関連法規制や学会の指針を調査し、また先行研究及び海外の判例を踏まえた論点整理を実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
一昨年度の調査結果についてまとめた論文発表を引き続き行うほか、患者の遺伝情報の家系員への共有に関する医師の義務及びゲノム研究への示唆についてまとめ発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の未使用額が多かったためで、使用額全体は予定通りである。次年度の成果発表で使用する。
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