主に3つのテーマに取り組んだ。第一に、昨年度より引き続き患者遺伝情報を家系員と共有する際の倫理的・法的問題について検討を進めた。近年英国で、患者遺伝情報の共有をめぐって家族から患者の診療医等が訴えられる裁判が起き、遺伝医療の専門職団体が守秘義務に関する方針を改訂した。臨床遺伝学において、遺伝情報を患者個人に帰属するとみなす伝統的アプローチから、患者と家系員で共有される遺伝情報は家系的要素であるとする家族アプローチを支持する立場が明確化されたことがわかった。これらの結果を日本の法規制、学会指針の立場から検討し学会にて発表した。 第二に、本研究の期間中、BRCA1/2の遺伝子変異保有再発乳がんや卵巣がん患者に対するコンパニオン診断薬や、がん遺伝子パネル検査が保険収載され、国内のゲノム医療に進展が見られた。そこで、市民におけるゲノム医療の認知度、懸念や期待、血縁者(特に子)との共有に関する見解を明らかにするため、国内の20-60代女性に対し、血縁者に遺伝性腫瘍が見つかったという仮想シナリオを用いたアンケート調査を行った。その結果、遺伝学的検査の受検を希望する人は39.3%、しない人は60.7%、希望する理由で最も多かったのは将来のがんのリスクを知りたいから、次いで、陽性だった場合に予防的措置が取れるからであった。一方、希望しない理由は検査費用の高さが最も多かった。受検を希望する人の77.5%は陽性だった場合には自分の子どもにも適切な時期に共有したいと回答した。 第三に、遺伝学的検査の結果の解釈更新に対する医療者・医療機関のフォローアップ責務について、文献調査、検査会社へのヒアリングを行った。フォローアップに対する法的な義務はないが、倫理的に望ましい行為とみなされる傾向が明らかとなった。医療者のみならず患者、検査会社を含む関係者で責務と役割を共有することが重要であると示された。
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