研究課題/領域番号 |
16K16334
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内野 花 大阪大学, COデザインセンター, 招へい教員 (20586820)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 被膜児伝説 / 産科医療 / 産科技術 / 生命観 / 比較文化 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、国内では岐阜・富山・石川の3県で、イギリスではロンドン・オクスフォード・カンタベリーの3都市で、被膜児伝説や産科習俗についての聞き取り調査や関連事象の文物調査をおこなった。また、平成28年9月にインドネシア・バリで開催された第3回国際アーツ&ヒューマニティーズ会議では、18・19世紀の江戸時代の文献に記載されている羊膜および胎盤(胞衣)にまつわる習俗や迷信について、当時の医療技術やその社会受容の観点から”Caul Related Superstitions in Japan Yedo Period”と題して口頭発表し、平成29年3月に同会議論文集に論文発表した。 調査地では、博物館や資料館等に収蔵されている産科医療や産科習俗に関連する文物やその詳細についての調査、および産科習俗や被膜児伝説に関する聞き取り調査をおこなった。しかしながら、各地とも、被膜児伝説に関する伝承は現存しておらず、産科習俗についてはイギリスでは文献に記載されていること以外は不明、国内では当該地の集落・市町村の合併や住民の移動等による習俗の散佚、習俗の相違と周辺集落の歴史的社会問題の関連性がわずかに見いだせた。 オクスフォードでは、ピットリバー博物館所蔵の被膜児伝説関連の文物3点(羊膜2点、羊膜を内包していたロールピン1点)の直接調査を実施した。幸い、これら3点の制作(使用・流通)年代は、19世紀初頭から末期までの、羊膜の値段の変化期および被膜児伝説の隆盛期に該当するため、この調査結果については、新聞記事や医薬書の記載内容と比較検討したうえで、平成29年度中に発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被膜児伝説は、日本・イギリスともに現在は伝承・信仰されておらず、かつ、現代西洋医学の浸透による薬草(ハーブ)使用の伝統医療に対する無関心や不信感があるため、聞き取り調査は主として、妊娠から出産に至るまでの周産期全般に関する習俗や伝承についておこなっている。また、イギリス以上に日本では伝承の断絶が著しく、遺憾ながら日本の被膜児伝説の伝承は、文献に頼らざるを得ない。 また、産科習俗の伝承断絶の時期は、日本・イギリスともに家族形態の変化した1960年代以降で、特にイギリスでは第1次世界大戦以降の近代科学技術の勃興期に民間における被膜児伝説の信仰が薄れていったことが確認できたため、戦時中の医薬学を含めた科学技術の発展と伝承の相関性、および女性観の変化と伝承の相関性にも着目している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の調査実施地は、いずれも被膜児伝説の存在が文献に確認できており、かつ、18・19世紀に産科医療の技術発展がみられた(または技術受容をおこなった)地であるが、現在、当該地では被膜児伝説は伝承されておらず、聞き取り調査でも、研究者を含めて見聞きしたことのある人物は1人(30代男性、オクスフォード、被膜児で出生した従兄弟あり)のみで、その伝承内容も限られたものであった。そのため、平成29年度の聞き取り実施調査は、国内外ともに、伝承が存続しているであろう地域で重点的におこなう。国内では産小屋が比較的多く設置された河川付近または湾岸付近の市町村を中心におこない、イギリスでは、内陸部の大学博物館や資料館等に被膜児・羊膜関連の文物が収蔵されていると期待できるため、スコットランド地方の河川・湾岸地域に加えて、内陸部の市町村での調査もあわせて実施する。 また、平成29年度は、国際薬史学会での発表を予定しているため、薬種または護符としての胎盤・臍帯・羊膜・羊水など胎児付属物の処理方法の分析について検討するとともに、出生児と胎児付属物の民俗的・宗教的関連性の有無、薬種の社会的概念も分析する予定である。
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