研究課題/領域番号 |
16K16335
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大塚 淳 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (60743705)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ホモロジー / 因果モデル / 生物学的種 / 進化発生生物学 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、当初計画にもとづき、進化生物学の存在論の検討を行った。とりわけホモロジー(相同性)を生物の発生過程の因果モデルの同型性によって表すことができるという、本研究のメインテーゼを発展させた。この研究に関しては、共同研究者であるYale大学のGunter Wagnerを訪問してディスカッションを行った他、11月にAtlantaで開かれたPhilosophy of Science Associationにおいて、The Causal Homology Conceptというタイトルにて講演を行った(他にも、6月に科学基礎論学会で発表)。本講演は同学会のプロシーディングスにも採択が決定されたため、同タイトルでの論文を執筆した。 またこの研究の発展として、因果的相同概念の対象をホモロジーより広げ、生物学的な「種」も因果的同型性によって表しうるというアイデアを着想し、11月の関西哲学会にて講演を行った。また一般的に、「種」は「科学的モデル」として理解できるという新たな説を提示し、Sydneyおよび京都での国際WSで発表した。H29には、このテーマを具体的に掘り下げ、英語論文を執筆する予定である。 また、H28年度夏にはシドニー大学のPaul Griffithsの研究室を訪れ、課題に関する共同研究を行った。とくに、因果関係の重要度の指標である specificity に関する数理的指標についてディスカッションを交わした。H28後期よりこのテーマに関し英語論文を執筆し、現在はほぼ完成段階(イントロと結論を残すのみ)となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、研究は計画通り順調に進展している。とくに、研究の理論的方向性を提示した論文が主要学会であるPhilosophy of Science Associationのプロシーディングスに採択されたことは、大きな進捗であったと言える。これ以外にも、オーストラリアでの国際学会(Philosophy of Biology at Dolphin Beach)での発表などを行うなど、本研究の国際的な認知度を高めることができた。また、因果的相同概念をホモロジー以外にも広げ、種概念にも適応できるという着想を得ることができた。「種とは何か」という問題は50年以上議論されてきた哲学的難問であるが、このアイデアを展開することで、この難問に対する従来とは全くことなった説を提示できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては、グラフ同型性によるホモロジーの定義という枠組みを、より精緻にしていく必要がある。この点において、最近Jantzenによって提示された Dynamic Kinds という考え方が適用できると考えている。よって当面の研究としては、ホモロジーをこのDynamic Kindsとして定式していくことが考えられる。この原著者のJantzen教授とはH28年11月のAtlantaでの学会でディスカッションを行っており、今度は同教授との共同研究も視野にいれて研究を進めていきたい。 それ以外においては、前述したcausal specificityおよび種概念に関する論文を書き上げ、投稿することが当面の課題となる。 また、H29年5月には、オーストリアのKonrad Lorentz Instituteで開かれる理論生物学ワークショップで招待講演を行う予定である。ここには世界各国から先端の生物学者・哲学者が招かれているため、同ワークショップでのディスカッションを通じて、今後の研究へのヒントが得られることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料整理およびプレゼンテーションの必要性から、29年度に予定していたタブレットの購入を前倒しして28年度に購入した。それと引き換えに、28年度に購入予定であったコンピュータの購入を先送りし、手持ちのものを使うこととした。その差額により、繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた差額は予定通り、コンピュータの購入に充当する。
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