研究課題
平成29年度は、計画に基づき、進化生物学の伝統的存在論と構造存在論の対比を踏まえて、後者の理論的発展に注力した。具体的には、2017年5月にオーストリアのウィーンのKonrad Lorentz Instituteで開かれた国際ワークショップにて、両存在論の比較と、進化発生生物学的研究に関する構造存在論の含意に関する招へい講演を行うとともに、第一線の進化生物学者/哲学者とディスカッションを行った。これを発展させた英語論文は、MIT pressから出版されるVienna Series in Theoretical Biologyに収録されることが決定している。群論を用いた構造存在論の定式化については、年度末から具体的な形を取り始め、新年度の日本生物地理学会での招待講演でその概要を発表した。特に、Ernst Mayrによる集団思考と、Dawkinsに代表されるネオダーウィン主義的な遺伝子中心主義の存在論を、それぞれ恒等変換と相加的変換という変換群の性質によって特徴づけることができたのは一つの成果であった。今後はこの中間項としての変換群によって本プロジェクトが対象とするような「構造的」存在を見出すことができるか、ということが焦点となる。ちなみに前年度に着想されたこのプロジェクトを「生物学的種」に広げるというアイデアについては、既に英語論文にまとめ、今年度のPhilosophy of Science Associationの大会発表原稿として投稿済みである。またそれ以外に、現在、本プロジェクトに係る内容を英語単著本として執筆中である。これはRole of mathematics in evolutionary theoryという題名(仮題)で、この夏に脱稿後、Cambridge University Pressから出版される予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
伝統あるKonrad Lorentz Instituteでの招へい講演、また日本人哲学者としては極めて珍しいCambridge UPからの英語単著本の出版計画など、H29年度は計画以上の進展があったと自負している。
今後の課題としては、まずはH30年夏までに前述の単著を完成させることが当面の課題となる。それと平行して、現在群論に基づく構造存在論の数理的な定式化を試みている。夏以降は、とくに化学における群論の適用を手がかりに、この問題にアプローチしていく予定である。
学内業務により予定していたISHPSSBブラジル大会への参加を見合わせたため、剰余金が発生した。こちらはH30年参加予定のPSA(シアトル)参加経費に充当する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
PLoS ONE
巻: 19-2 ページ: e0184188
Philosophy of science
巻: 84(5) ページ: 1128-1139