研究課題/領域番号 |
16K16338
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
片岡 太郎 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (80610188)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 縄文時代 / 漆櫛 / 保存科学 / X線CT / 材質・技法 / 考古学 / 文化財科学 |
研究実績の概要 |
当該年度では、前年度までに保存処理とX線CTの解析を完了した史跡山王囲遺跡(宮城県栗原市)から出土した漆櫛を軸として、漆櫛の保存科学的研究ならびに製作技術研究についての報告書を作成した。 保存科学的研究では、漆器資料がすべて乾燥状態であることに加え、(1)表面に土埃などが殆ど無い比較的クリーンな状態、(2)表面が土埃などの異物が多く付着している状態、そして、これらに加えて、(3)発掘現場の土壌とともに切り取られた状態であった。これらの異なる状態に留意しつつ、現状維持を基本とし、本来の遺物表面には無かった土埃などの異物を可能な限り除去するとともに、強度性能を付与する方法を開発し、実践した。 漆櫛の製作技術的研究では、漆櫛はすべて結歯式であることがわかった。すなわち、“紐だけ”による櫛歯の結束はみられず、櫛歯を横架材と紐を利用して結束しながら頭部の骨組みをするという特徴がみられた。骨組み後は、塑形材を骨組みの隙間に埋めるようにして頭部の形状を成形している。こうした基本的な製作工程のもと、頭部躯体に関し、顔料の種類、内部の骨組み、塑形材の使い分けの観点から、共通点と相違点を見出した。頭部内部の骨組みの材料は、櫛歯と横架材、これらを結束する紐によって作られている点ですべてに共通していた。櫛歯の断面形はすべて楕円、横架材の断面形はすべて長方形であり、断面の寸法の違いはあるが、共通した形状であった。相違点としては、頭部上面の薄い板材を付けている場合と無い場合があることであった。頭部内部の骨組みの方法は、(1)櫛歯を正面と背面から横架材で挟み込んでその上から櫛歯1本づつに紐を巻き付けるタイプ、(2)(1)の方法に加えて櫛歯全部を一つにして束ねる部分のあるタイプの2種類に大別されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究目的である、型式学的な年代が判別土器と一緒に出土した漆櫛と籃胎漆器、腕輪などの漆器を研究資料として、縄文時代晩期の同一地域における技法の変遷の解明は、概ね実現できたが、学術研究を社会に還元すること、すなわち、現代漆工技術を使った復元研究を通じた新しい体験学習や活用研究がほとんど進められていないため、やや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、X線CT解析で得られた漆器の三次元データを使った縄文時代の漆器の復元研究をすすめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果を発表するにあたり、参加を予定していた国際学会(韓国文化財保存科学学会)と国際シンポジウム(韓国文化財保存科学センター10周年記念(文化財非破壊診断)国際学術シンポジウム)への出席を日韓関係悪化により見合わせたため。また、本研究の核となる縄文時代の漆櫛の構造が想定以上に複雑であったことから、モデル化するという目的を達成するためには、より精緻に研究を進める必要が生じたため。
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