本研究は、宮城県山王囲遺跡から出土した縄文時代晩期の漆櫛と籃胎漆器、腕輪などの漆器を研究資料として、応募者が既に確立したX線CTを使った精密な非破壊内部構造解析により、漆櫛や籃胎漆器などの漆器の製作工程を完全解明したうえで、同一地域における技法の変遷を明らかとすることを目的とした。 本研究の成果は、以下の通りである。X線CTによる断層像の観察から、漆器内部の劣化程度の違いから、漆が他の有機材料(木本や草本等)よりも相対的に良く残存していることを確認でき、そして、漆が型取り容器の役割をなしており、その他の有機材料が劣化により消失または密度低下を引き起こしているが、“空洞”として形状を残していることを確認した。これを利用して、“空洞”を三次元モデルとして可視化し、従来解析できなかった縄文時代の櫛歯の固定方法と固定に使った“紐の撚り方”、籃胎漆器の編組技法について、三次元モデルして、明快且つ精密に観察することを実現した。 そして、合計136点の漆器を保存処理するとともに、特に、層序が判明している縄文時代晩期(大洞A2式期-C2式期相当)の漆櫛42点の解析から、同時代変遷中の漆櫛は、すべて結歯式であるが、“紐だけ”による櫛歯の結束はみられず、横架材と紐を利用して結束しながら頭部の骨組みをするという共通した認識のもとで製作が行われていたことを明らかにできた。 本研究成果は、学会発表で関連学会へ報告するとともに、報告書を作成して広く一般への普及啓発した。最終年度では、VR技術を使った縄文漆器の復元研究を進め、新しい体験学習や教育活動への基盤を模索した。
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