当該年度は前年度から引き続き石造文化遺産に着生する地衣類における水溶性成分の定量分析をイオンクロマトグラフィーにて行い、特に有機酸に着目してその種類と含有量を把握するための方法を確立した。抽出方法を変えて水溶性成分の抽出実験を行い、条件を決定した。 本分析では、石造文化遺産に着生する地衣類を対象としてカンボジア・アンコール遺跡バイヨン寺院を構成する石材に付着した地衣類7種類を用いた。前年度は雨季に採集した地衣類について分析を実施したが、当該年度は乾季に採集した地衣類について分析を実施し、季節の違いによる有機酸量の変化に着目し解析を行った。7種類について定量分析ができたのは酢酸とシュウ酸であり、特に影響が大きいと考えられるシュウ酸に注目した。乾季に採集した地衣類の水抽出液におけるシュウ酸は、雨季同様、シュウ酸カルシウムの有無で検出量が異なる傾向がみられ、シュウ酸カルシウムを含む地衣類では遊離シュウ酸が多いことがわかった。面積あたりのシュウ酸量を比較すると、シュウ酸カルシウム結晶を含む場合は含まない場合の3倍以上であった。遊離シュウ酸の量は化学的劣化の指標の一つとなる可能性があり、さらにカルシウム結晶の有無により化学的劣化リスクの高さを判断できる可能性を確認した。 現地調査ではサンプルを採取したカンボジア・アンコール遺跡バイヨン寺院を調査し、分析に用いた地衣類の生育環境、地衣類の付着状況を調査した。国内学会、国際学会にて研究成果を発表した。
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