研究課題
家畜品種とその野生原種は、形態学的および遺伝学的変異が大きく、先史時代の遺跡から出土した動物骨をもとにした両者の判別には困難がともなう。そこで本研究は、「生前、ヒトに飼養されていたのか否か」という視点を導入することで、この問題の解決を目指す。その具体的手段として、採食行動にともない歯の表面に残される微小な傷「マイクロウェア」に注目した。野生原種が人間の生活圏に接近し、本来の食性から、人間の残飯食などへ食餌を変化させていく過程では、採食行動に伴い口中に取り込まれる磨耗物質(地表中の砂塵や、食餌である植物体中の珪酸体など)の含有量や組成も変化すると予想される。この磨耗物質の違いは、食餌の咀嚼にともなって臼歯のエナメル質表面に残されるマイクロウェアの形状の違いに反映されることが知られており、既に野生種間や種内の食性の違いの判別に用いられている。そこで、この手法を動物考古試料に適用することで、食性の違いから野生原種と家畜品種を判別できる可能性が高いと考えた。また本研究は、マイクロウェアの三次元形状を共焦点レーザ顕微鏡で取得し、工業規格(ISO25178)により定量化することで、観察者間の誤差を排除することとした。平成28年度は、家畜品種のなかでも食肉資源として特に重要なブタの野生原種であるイノシシについて、現生種にみられるマイクロウェアの形状をデータベース化するとともに、ISO規格による定量化、および生息環境に応じた比較を実施した。その結果、歯の表面に残されたマイクロウェアの深さや体積が、食性の変化に応じて統計学的に有意に異なることを確認した。また、琉球列島地域の先史時代遺跡から出土したイノシシ類の資料を先行的に観察し、いずれの出土資料もマイクロウェアの保存状態が非常に良好であり、本手法が当該地域の出土資料にも問題なく適用できることを確認した。
3: やや遅れている
家畜品種に対するデータ収集が遅れている。特に、屋外放牧集団など、動物考古資料へ本手法を応用する際の重要な基盤的知見となるであろう資料の収集と充実化を行う必要がある。そこで、平成29年度より、国内の養豚農場関係者と、資料の入手や、飼育条件の観察記録など、研究協力体制の構築に向けた具体的な交渉を開始している。一方で、琉球列島の遺跡出土資料については、年代や地域をほぼ把握するとともに、所蔵先機関との良好な研究協力体制を構築することができた。さらに、一部の出土資料について、歯の表面の保存状態を顕微鏡下で確認したところ、現生種と遜色ない保存状態が維持されていることが判明し、マイクロウェアの解析が問題なく適用できることを確認した。
食性が既知の現生種資料、とくに家畜品種の資料入手と分析を優先的に推進し、方法論の妥当性と信頼性を検証する。そのうえで、現生種データを比較基準として、出土資料の比較分析を実施する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Palaeobiodiversity and Palaeoenvironments
巻: 96 ページ: 445-452
10.1007/s12549-016-0237-0