本研究は、対話とハンズ・オン教材を組み合わせた博物館教育の実践と研究を目的としている。具体的には、京都国立博物館において京博ナビゲーター(ボランティア)が行う「ミュージアム・カート」を主な考察の対象として、来館者の主体的な興味・関心を引き出すための手法や教材を検討・実践し、最終的にその成果を普遍化して他の教育普及活動にも応用できるようにすることを目的としている。しかし新型コロナウイルスの影響により、令和2年度には京博ナビゲーターの活動が中止となり、活動の2本柱であるハンズ・オンと対話が、感染症の流行の際には最も実施し難い手法であることが明らかになった。 最終年度である令和3年度も、緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置がたびたび発令され、ミュージアム・カートは再開しなかった。こうした状況を踏まえ、次にあげるものを実施した。1.感染症対策に関する他館の活動調査 2.コロナ禍の新たな活動に関する他館の活動調査 3.コロナ禍でのボランティア運営に関する他館の活動調査 4.コロナ禍での新たな教育普及プログラムの実践・他館への情報提供 5.活動再開・再編に向けた教材の調整 上記の活動を行う中で「さわる」「話す」体験が、人間が何かを認識したり考えたりする際に欠かすことのできない行為だと再認識した。研究を通じて、「さわる」行為には、「関心が湧く/複雑な情報も理解しやすい/視覚以外で対象を認識できる」効果が、「話す」行為には「感覚を言語化して整理できる/感動を共有できる/自分に合った情報を得られる」効果があることが明らかになった。情報技術を使ってそれらを部分的に体験することはできても、誰もが簡単にアクセスできるようにするには課題が多い。今後の計画としては、感染症対策や代替手段を実施しつつ、「さわる」「話す」が再び実施できるようになった時、本研究の成果を活かした実践を行いたいと考えている。
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