(1)広島における『村上家乗日記』の天候記録をもとに1779年以降の7・8月の月平均日最高気温の変動を復元した。復元の結果、1780年代と1830年代の夏は、気温が低かったことが明らかになった。一方、1810-20年代は温暖であり、推定気温は現在(1981-2010年)の広島の平年値とほぼ同程度であった。観測時代の気象データをもとに広島における気温復元値の空間代表性を調べた結果、広島における気温復元値は、東北南部から九州にかけての地域における広域的な気温変動傾向を代表していることが明らかになった。従来、1780年代や1830年代は東日本で顕著な冷夏であったと考えられてきたが、本研究の結果、これらの冷夏は全国的な現象であった可能性が示された。
(2)気温変動のほかに、降水量変動についての分析も行った。米国人宣教師ヘボンにより1860-1871年に横浜で観測された気象観測資料の解析を行った。解析の結果、1868年は夏が多雨傾向であった一方、1867年の夏季は少雨傾向が強いことが明らかになった。また、横浜の降水量記録を全国各地の古日記天候記録や気候災害記録と比較した結果、1867年夏季の少雨と1868年夏の多雨は全国的現象であったことが分かった。従来の研究で、1850-60年代は夏の高温傾向が強かったことが知られているが、本研究によって降水量の年々変動が大きい年代でもあったことが分かった。降水量データは、国内外への気候データ公開を目的として設立されたウェッブサイト(JCDP: Japan-Asia Climate Data Program)に提供し公開した。
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