研究課題/領域番号 |
16K16353
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小林 重人 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (20610059)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | コミュニティカフェ / ソーシャルキャピタル / 地域愛着 / 社会的環境 / マルチエージェントシミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,地域の居場所(コミュニティカフェ)における利用者の運営に対する協力行動のポジティブ&ネガティブフィードバックを同定し,利用者の協力行動の形成・拡大メカニズムを解明することである.この目的を達成するために,平成28年度は地域の居場所の運営に関する参加要因を明らかにするために実施したインタビュー調査のデータ分析を行った. インタビュー調査の対象者はコミュニティカフェのスタッフを対象とし,質的データ分析法であるSCATによってインタビューデータを分析した.その結果から,スタッフとしてのコミュニティカフェにおける経験が次の3つの作用を引き起こしている可能性が示唆された.1 自分の本業や活動を見つめ直す機会となる,2 他社との関係や自己実現の程度によって自分のやりたいことがより明確になる,3 他社との関わり方によっては自己評価が下がり,スタッフとしての活動意欲が低下する. これらの考察と先行研究との比較により,協力行動の形成と拡大に寄与する要因としてコミュニティカフェの運営者や同僚のサポートが見出された.サポートの方法としては次の2つが挙げられる.コミュニティカフェでのタスクが重すぎると,1や2のスタッフ自身の本業やカフェでの協力行動に対する内省を阻害してしまうことから,それを避けるために自分がこの場所で受け入れてもらえているという実感や居心地の良さを高める配慮を運営者側が行っていく必要がある.また,3が生じないようにするためには,コミュニティカフェのスタッフとして役割を担っているという自己肯定感を高める機会を提供することが求められる.具体的には,単にタスクを与えるだけではなく,スタッフ個人の協力目的に合った役割を担ってもらうことが重要となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度に研究代表者が育児休業を取得したため,地域の居場所の運営者・スタッフに対するインタビューが予定した件数を達成することができなかった.しかし,取得したインタビューデータはすべてSCATによって分析が終了していることから,平成29年度に実施する地域の居場所の利用者の交流モデルを構築することに大きな支障が生じることはない.また,地域の居場所に対して社会調査とコンピュータ・シミュレーションという異なる二つの手法を用いて利用者同士の交流を分析することについてのメリットや実際の成果を学術雑誌(『建築と社会』)に発表できたことは,今後の研究を推進する上で必要となる基礎的な理解を深めることに繋がった.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,インタビュー調査から明らかとなった協力行動の発生過程とその要因をもとにして,地域愛着と認知的SCを内部変数とする利用者の交流モデルを構築することを中心に研究を行っていく.モデル構築後には,地域の居場所における物理的・社会的環境に関する変数,利用者の内部変数,協力行動の発生・拡大の関係をコンピュータ・シミュレーションによって分析を行う.また,平成28年度に十分確保することができなかったインタビューデータも引き続き,調査を進めることで取得し,モデルの改訂に反映させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に計画していた地域の居場所の運営者・スタッフに対するインタビュー調査を予定数達成できなかったことから,調査のために使用を予定していた旅費とインタビューデータを処理するために雇用予定であった補助員にかかる人件費を計画通りに執行することができなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に実施予定であったインタビュー調査を平成29年度に実施するように計画を変更し,そのための調査旅費と人件費として次年度使用額を執行する.また,平成28年度に実施したインタビュー調査の分析について一定の結果が出ていることから,その成果を国内の複数の学会で報告し,当該分野の専門家と研究成果について議論することを計画している.成果発表のための旅費としても次年度使用額を執行する.
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