今年度も引き続き,高知県を対象としたバス時刻表設計の研究に取り組んだ.国土交通省は,人口減少および高齢化が加速する中で地方都市が持続可能で暮らしやすい都市であり続けるために,コンパクトシティの形成,および,公共交通ネットワークの再構築に取り組んでいる.より現実に役立つバス時刻表を設計するために,コンパクトシティの概念に着目して,現在のバス時刻表の分析を行った.昨年度までに構築した高知県の鉄道・バスに対する時空間ネットワークを用いて,住民の移動利便性を評価し,鉄道・バス間,バス・バス間の乗換が不便な箇所を抽出した.さらに,住民の消費行動に着目し,移動利便性と買い物のしやすさの関係を分析した. 本研究課題のテーマは,時空間ネットワークを用いた公共交通の設計および,移動者の消費行動促進への時空間ネットワークの活用である.研究期間全体を通して,静岡県富士市,岩手県,高知県を対象としてバス時刻表の設計を行い,また,岩手県大槌町,高知県を対象としてバス路線の設計を行った.対象地域によって住民の「利便性」が意味するものは異なるため,その地域に合わせたモデルをそれぞれ提案している.さらに,首都圏の通勤時間帯の混雑緩和を目指し,鉄道の優等列車停車駅の最適化を行った.消費行動に関する研究としては,東京首都圏郊外の駅構内売店に関する研究と,乗り換え待ち時間に買い物などの寄り道を誘導する時刻表設計の研究を進めており,時空間ネットワークの新たな応用を開拓することができた.さらに,本研究課題を通じて培った実用の視点に基づき,応用を見据えた線形代数の著書と,ネットワークアルゴリズムの訳書(分担)を出版した.
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