研究課題/領域番号 |
16K16368
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
平野 旭 呉工業高等専門学校, 電気情報工学分野, 准教授 (60594778)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオアッセイ |
研究実績の概要 |
安全な生活用水の確保を目的として,生物を利用した水質検査法の開発を目的とした研究である.メダカを被験魚に採用し,同種の研究を行った報告はあるが,水質条件に対するメダカの呼吸信号に関する知見が少ない為,実用に耐えうる手法の提案に至っていない.この知見を得る為に,初年度は,メダカの呼吸信号をロストしない最少電極数と配置に関する研究を行った.経験則とメダカの呼吸信号の発生原理を参考に,さまざまな電極配置を試みた.具体的な配置例の結論には至らなかったが,有用となる以下2点の研究効果が得られた. 1つ目は,炭素棒電極にこだわる必要が無いことが判明した点である.計測には15万倍程度の信号増幅アンプが必要であり,計測経路のどこかで微小の直流成分が発生すると,信号が飽和して計測ができなくなってしまう.計測時に信号が飽和する問題の対策として,電極表面での分極が少ないと見込まれる炭素棒電極を採用してきたが,信号増幅アンプを改良することで炭素棒電極にこだわる必要が無いことが判明した.銅張積層の生基板で電極を作成しても信号が計測できることが確認された為,計測システムの構築における電極素材および形状の選択性が広がった. 2つ目は,水質計測機器の導入により,信号が計測できなくなる原因解明に向けて新たな実験計画を立てられたことである.計測し始めて一定期間は,特徴的な呼吸信号が確認されるが,同じ個体でもあっても日数が経つにつれ,計測対象とする信号のSN比が極端に悪くなる傾向が何度も確認された.これについて存酸素濃度などの傾向も確認したが,特に大きな違いなどは確認されなかった.従って,「慣れ」などの感情に起因したエラ膜でのイオン交換量の低下と推測された.これまでも同様の傾向は確認されてきたが,今回,水質条件を計測する機器が導入できた為,環境要因よりも心理要因の占める割合が高そうであることが推測できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
信号をロストしない最少電極数と配置に関する研究ステップの年度であった.これまでの経験則とメダカの呼吸信号の発生理論を参考に,さまざまな電極配置を試みた.計測電極には炭素棒電極を採用し,有効と判断される何種類かの電極配置について,その優位性の比較を行ってきた.計測し始めて一定期間は,特徴的な呼吸信号が確認されるが,同じ個体でもあっても日数が経つにつれ,計測対象とする信号のSN比が極端に悪くなる傾向が何度も確認された.これについて,溶存酸素濃度などの傾向も確認したが,際立った変化はみられず,「慣れ」などの感情に起因したエラ膜でのイオン交換量の低下と推測したが,原因究明については次年度以降も継続課題である. このような各個体の「慣れ」や「体質」といった特徴差を考慮し,一度に複数匹の呼吸信号を別々の水槽で計測することが良いと判断し,2年目に導入予定であった「集合水槽システム」を自作することで,別々の水槽にいれた個体から,同条件の水質に対する信号を同時に計測するシステムを構築した.当初予定していた環境計測条件を同時に記録する機能の付加までには至っていない.これは,水質条件が急激に変化することが無かった為,手作業による定期的な確認で十分と判断された為である. 計測時に信号が飽和する問題の対策として,電極表面の分極が少ないと見込まれる炭素棒電極を採用してきたが,信号増幅アンプを改良することで炭素棒電極にこだわる必要が無いことが判明した.逆に,その表面の形状が要因で計測信号を捉えにくい,もしくは,ノイズを拾いやすい傾向が見受けられた為,銅張積層の生基板で電極を作成して計測してみたところ,一定の効果を確認することができた. 以上より,一定の進捗はあるが,信号計測が困難になる不確定要因がはっきり解明されていない為,上記区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画としては,まず,計測用電極としての効果が確認され銅張積層の生基板を電極に採用し,その面積および形状を変更しつつ,3Dプリンタで水槽の任意位置に配置する為のアタッチメントを制作し,信号をロストしない電極配置および形状・面積に関する研究を継続する.一方,「集合水槽システム」および計測システムは,初年度に購入した環境計測システムから同時に水質条件(pHや導電率や溶存酸素等)を記録できるようにする計画である. 本研究計画では,呼吸信号のみを用いたバイオアッセイシステムの構築を目的としており,カメラレスのシステムを想定しているが,「慣れ」もしくは「恐怖」などの感情の分析の必要性がうかがわれる為,その一助として,水槽上部もしくは水中にカメラを設置し,えらの動きの頻度などから感情変化を推定しつつ,信号低下の原因究明につなげていく予定である.また,信号の振幅が低下した場合にも計測できるように,信号増幅アンプを再検討する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
アンプの改良用の部品購入において,長期間納期未定の部品が発生した為.
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次年度使用額の使用計画 |
信号増幅アンプの改良により,計測電極を炭素棒電極に拘らず,銅張積層の生基板が採用できるようになった.そこで,銅張積層生基板の形状を自在に加工し,計測に適した電極形状および配置に関する研究予算に割り当てる. ある程度の信号が計測できるようになる見込みから,データ分析用の機器購入に割り当てる予定である.
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