研究課題/領域番号 |
16K16369
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
石原 凌河 龍谷大学, 政策学部, 講師 (00733396)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 災害遺構 / 維持管理 / 保存 / 価値 / 便益 / 活用 / 防災 |
研究実績の概要 |
本研究は、災害遺構が実践的な防災・減災活動を生み出す「場」としての機能を果たすために、1)災害遺構に保存に至った要因と関係者の役割、2)災害遺構の保存・活用が防災意識の向上に果たす役割、3)災害遺構の利活用の実態、の3点を明らかにする。最終的には、災害遺構の「保存-解体」を巡っての無用な亀裂を生じさせずに、住民間の合意形成を達成するための指針と、地域コミュニティが主体となった活動実態を分析することにより、災害遺構の更なる活性化策の提言を目指す。 平成29年度は、当初の研究計画で予定していた通り、国内外で保存されている災害遺構から、東日本大震災の被災地、台湾集集地震の被災地、雲仙普賢岳噴火災害の被災地の遺構を選定し、現地調査、保存に関わった関係者からのヒアリング調査、資料収集、質問紙調査により、災害遺構の保存過程と維持管理の課題やステークホルダーとの関わり、災害遺構の価値構成について分析を行った。 ヒアリング調査では、災害遺構の保存を進める上で、災害当初から遺構になるものを選定し、地域住民に働きかけながら保存を促していく専門家の役割が大きいことなどが示唆された。 国内外の災害遺構の保存・活用に関する資料・報告書から分析した結果、災害遺構の価値として「歴史的価値」「教育的価値」「追悼的価値」「まちづくり上の価値」「経済的価値」の5つに分類することができた。 雲仙普賢岳噴火災害の遺構「旧大野木場小学校被災校舎」を事例にした質問紙調査により、地域住民が認識する災害遺構の価値構成を定量的に把握した結果、災害や遺構への関わりがある人の方が、災害遺構の保存に対する便益額が相対的に高いことなどが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、1)災害遺構の保存に至る要因とステークホルダーとの関わりの解明、2)防災意識・行動に資するための災害遺構の認識の解明、3)災害遺構の保存と利活用の有効性の検証と方法論の提示、の3点を中心に調査を行った。 1)については、東日本大震災の被災地、台湾集集地震の被災地、雲仙普賢岳噴火災害の被災地の遺構について関係者へのヒアリング調査を行うことができたことから、順調に研究が進んでいる。ただし、当初予定していた、四川大地震の遺構に関する現地調査が、受入機関の都合により平成29年度中に行うことができなかったため、平成30年度に延期して実施する。 2)については、質問紙調査により災害遺構の価値構成について分析することができたものの、災害遺構の利活用と防災意識や防災行動との関連について有益な知見が得られておらず、当初よりもやや遅れている。そのため、平成29年度に実施した質問紙調査の分析を更に深めていくとともに、必要に応じて追加の質問紙調査も実施していく。 3)については、資料調査により災害遺構の価値を分類し、質問紙調査により地域住民が認識する災害遺構の価値構成を定量的に明らかにすることができたため、おおむね順調に進展している。平成30年度は地域住民だけでなく来訪者や観光客が認識する災害遺構の価値構成や利活用の有効策についても整理していく。
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今後の研究の推進方策 |
申請した研究計画に基づいて、以下の通りに推進方策をとっていく。 ・2018年度に現地調査とヒアリング調査が実施できなかった遺構についても、保存に関わったキーパーソンやステークホルダーへのヒアリング調査を実施し、保存に至った要因とステークホルダーの関わりについて時系列的に解明する。また、これまで行ったヒアリング調査の結果を整理し、どのような理由で保存が選定されたのかを解明するとともに、保存・維持管理の方法や将来的な利活用が決定された要因について体系的に分析する。 ・平成29年度に現地調査とヒアリング調査を行った東日本大震災と雲仙普賢岳噴火災害の遺構に対して、地域住民や災害遺構の来訪者を対象とした質問紙調査を追加で行い、災害遺構の利活用の実態と効果の検証を行う。質問紙調査では、災害遺構が人々の防災意識の啓発や、防災・減災に資する行動に寄与するかについて明らかにしていく。 ・これまでの成果を学会発表や学術論文として取りまとめ、対外的に広く発信していく。また、本研究で得られた成果を整理した上で、災害遺構の保存や維持管理の方策の妥当性について検証するとともに、災害遺構の保存と利活用の有効性と地域コミュニティが主体となった災害遺構の活用の活性化策の提言を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に実施予定だった四川大地震の遺構に関する現地調査が延期となったため、次年度使用額が発生した。平成30年度は、四川大地震の遺構に関する現地調査の旅費に加えて、当初に計画していた通り、現地調査の旅費、質問紙調査に係る費用と、学術論文や学会発表の投稿料を中心に計上する。
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