研究課題/領域番号 |
16K16370
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
重藤 迪子 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (90708463)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 震源近傍 / プレート境界 / 堆積盆地 / 2015年ネパール・ゴルカ地震 |
研究実績の概要 |
本研究では,プレート境界地震での震源近傍における堆積盆地の強震動予測の高精度化を目的に,ネパール連邦民主共和国・カトマンズ盆地を例に,インドとユーラシアプレートの境界で発生した,2015年ネパール・ゴルカ地震(Mw7.8)の強震動特性の評価,およびこのプレート境界大地震の震源域近傍で得られた長時間幅速度パルスの堆積盆地における増幅メカニズムの解明を行う.平成29年度の成果は以下の通りである. 1. 2015年ネパール・ゴルカ地震は,地表地震断層は認められないが,プレートの直上に位置するカトマンズ盆地の岩盤サイトにおいて得られた強震記録は,幅6秒の片振幅の速度パルス地震動が生じている.本年度は本震の強震記録に関して,既往インバージョン結果に基づき,長時間幅パルス地震動に影響を与える小断層部分を抽出し,さらに基礎的な検討として,深さ約10 kmの低角逆断層面のほぼ直上の観測記録に見られる長時間幅パルス地震動の生成に関して,複数震源を用いて全無限媒質空間における地震動を表現定理に基づき計算し,パルスへの寄与を確認した.その結果,断層直交方向成分・鉛直成分において観測される片振幅速度パルスは,最近傍の震源からの近地項・中間項に大きく影響を受けたものであることが明らかとなった.岩盤サイトで観測された長時間幅パルス地震動は,堆積盆地上で大きく増幅され,長周期構造物に脅威となる地震動となっている. 2. カトマンズ盆地内の8強震観測点の記録に対して,レシーバー関数解析を行い,1次元速度構造モデルの妥当性を確認した.観測記録によるレシーバー関数から求まるPS-P時間は,盆地中西部で0.8秒程度,中東部で1.0秒程度,堆積層上サイト内で0.4~1秒の幅があり,盆地内で大きく変化することがわかった.観測記録に基づくPS-P時間と1次元速度構造モデルから計算される値は概ね一致することが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のことより概ね順調に進展していると判断した. 平成29年度は,2015年ネパール・ゴルカ地震の本震記録に関して,既往インバージョン結果をもとに,長時間幅パルス地震動に影響を与える小断層部分を抽出し,岩盤観測点におけるパルス性地震動の再現を行うことができた.また,岩盤観測点近傍の堆積層上の観測点での記録を再現するために,中小地震の観測記録を用いて直下の速度構造モデルを推定し,国際誌に公表に至っている.さらに,強震観測点直下の一次元速度構造と前年度に収集したカトマンズ盆地の地質学・地震学的既往資料から,カトマンズ盆地の3次元速度構造モデルを作成し,次年度行う強震動シミュレーションの準備が出来ている.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,既往研究による震源モデルと3次元深部地下構造モデルに基づき,2015年ネパール・ゴルカ地震の強震動シミュレーションを実施する.深さ約10 kmの低角逆断層面のほぼ直上に位置するカトマンズ盆地上の観測記録に見られた長時間幅パルス地震動を再現し,このような長時間幅の速度パルス地震動が盆地に入力することで,軟弱な盆地構造の影響によりどのように増幅するか検討する.さらに,この長周期構造物に脅威となる地震動に関し,理論・数値計算により精査することで,カトマンズ盆地と同様なテクトニック環境下での設計様入力地震動像を議論する.
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次年度使用額が生じた理由 |
地震観測用機材の購入を予定していたが,借用できたため,次年度の研究成果の発表や情報収集のための旅費,消耗品等として使用することに変更した.
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