研究課題/領域番号 |
16K16375
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研究機関 | 国立研究開発法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
鈴木 拓郎 国立研究開発法人森林総合研究所, 森林防災研究領域, 主任研究員 (60535524)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 土石流 / 侵食過程 / 粒子法 / 不飽和浸透 |
研究実績の概要 |
河床堆積物の侵食によって,土石流が10 倍以上の規模に発達する場合などがあり,甚大な被害をもたらす.このような現象の侵食過程の詳細なメカニズムは解明されておらず,従来の評価手法では合理的に評価できない.本研究では,水路実験と数値実験によって河床水分条件の変化が土石流の侵食発達過程に及ぼす影響を明らかにするとともに,粒子法に不飽和浸透過程を導入した新たな計算手法を構築し.これらを通じて,土石流規模が急激に増大する支配条件を明らかし,評価手法を確立することを目的とした. 本年度は不飽和浸透過程を導入した数値計算手法を構築するとともに,計算アルゴリズムの効率化による高速化を実施した.不飽和浸透モデルはダルシー則に基づいた含水比交換モデルを構築して既存の土石流モデルに導入した.このモデルを用いて,天然ダムの決壊過程に関する水路実験の再現計算を実施した.天然ダムの決壊過程は,天然ダム上流側に湛水して越流水が発生し,その越流水によって侵食決壊が発生する越流型決壊と,天然ダム土塊に水が浸潤し,湛水部が満水になるよりも先に下流法先に浸潤線が到達して,その脚部から崩れて崩壊に至る崩壊型決壊に大別される.従来の浅水流方程式による計算手法は,越流型決壊の再現か可能であったが,崩壊型決壊を再現することは極めて困難であった.それに対し,粒子法モデルでは両者の過程を精度良く再現可能であった. 次に,計算アルゴリズムを効率化し,飽和堆積物の侵食による土石流の侵食過程の再現計算を実施した.効率化前のプログラムに比べて最大数百倍の高速化が実現していることを確認した.また,従来の浅水流方程式による計算手法よりも粒子法の方が高い精度で再現可能であることを示した.これは,従来の計算手法では,水深方向を積分しているため,輸送濃度の評価に不十分な点があるからである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,不飽和浸透モデルを導入した数値計算モデルのプロトタイプの構築と,次年度以降に実施する検証実験の予備実験をすることを目的としていた.不飽和浸透モデルでは,粒子毎に含水比のパラメータを付与し,含水比を粒子間で移動させることで不飽和浸透現象を再現することを計画していた.モデル構築の際に,不飽和浸透における見かけの体積の減少をどう取り扱うのかという問題があったが,予め複数の案を考えていたため,その中の一案である粒子の消去という方法で対処することができた.また,不飽和浸透モデルの導入に伴う応力モデルの修正も計画通り実施した.モデル構築が想定よりも大幅に順調に進んだため,既往研究の実験データを用いた検証を進めることもできた.特に,天然ダム土塊への不飽和浸透現象を再現できることを確認できたので,順調であると言える.ただし,パラメータの一般的な設定方法は今後検討する必要がある. 計算アルゴリズムの効率化は次年度以降に計画していたものであるが,数値計算モデルの構築と同時に検討を行った.当初から想定していた,OpenMPによる並列化に加えて,領域分割法も実装して,大幅な高速化を達成することができた. 水路実験については,土壌水分計とデータロガーの接続確認や動作確認を行ったが,予備実験には至っていない.これは,数値計算モデルの構築や検討がかなり順調であったため,これを先に進めることを重視したからである.次年度は水路実験に注力して実施する.
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今後の研究の推進方策 |
モデルの構築がおおむね順調に進んでいるため,今後は水路実験による侵食現象の実態把握と実験データによる構築モデルの検証を進める.水理実験では,固定床区間の一部に不飽和堆積物による移動床区間を設けて,上流から流下した土石流による移動床区間の侵食状況を測定することを想定している.移動床区間の初期土壌水分条件や,水路勾配などを変化させて,侵食深や土石流の流動過程の変化を確認する.側面からビデオカメラによって撮影した動画データを用いて解析をする.可能であれば画像解析手法の導入も検討している.移動床区間においては,土壌水分計を設置して土壌水分の時間変化を測定し,土石流到達時間と深さ方向の浸透の関係性を把握する. これまでに不飽和浸透モデルを導入した計算手法の再現性をある程度確認できているが,特に土壌水分特性曲線モデルのパラメータの一般性は確認できていない.複数の実験を実施して検証し,条件ごとにパラメータを調整するのではなく,一般的なパラメータで再現できるよう必要に応じてモデルを改良する. 計算の高速化は大幅に達成できているが,さらなるアルゴリズムの効率化も検討する.本研究モデルの基礎となっている粒子法の研究分野における研究動向の情報収集に努め,必要な改良は実施していく. 水路実験データを用いた計算モデルの検証は随時進めて,必要に応じて改良を実施する.水路実験に対する再現性が確認できれば,幅広い条件を対象とした数理実験を実施して,土石流が急激に発達する支配要因について検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品が当初予定していた額よりも安価で購入できたため.
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次年度使用額の使用計画 |
計算データの容量が当初の予定よりも大きくなりそうなため,データ保存用のハードディスクを当初の予定よりも容量の大きいものを購入する.
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