本研究は,山地災害の中でも特に大きな被害をもたらす土石流の侵食過程の評価手法の高度化を目指すものである。侵食過程においては,火山噴出物の堆積によって土石流が侵食・発達しやすくなる場合,小規模崩壊に起因する土石流が10倍以上の規模に侵食・発達する場合などがあるが,現象の侵食過程の詳細なメカニズムは解明されておらず,従来の評価手法では合理的に評価できない。本研究では,水路実験と数値実験によって河床水分条件の変化が土石流の侵食発達過程に及ぼす影響を明らかにするとともに,粒子法に不飽和浸透過程を導入した新たな計算手法を構築することを目的とした。 平成30年度では,水路実験結果,数値実験結果を分析した。実験では,不飽和堆積層に土石流が侵入した際に,堆積層上で一旦停止した後,後続の土石流と共に一気に流出する結果が急勾配条件で生じた。それよりも緩い勾配では細かな停止・減速を繰り返した。この急勾配領域における現象は土石流発生源頭部における段波の形成と関連していると考えられる。前年度までに構築した粒子法では,水が間隙水に浸透した分の粒子を消去する方法を用いていたが,全領域一括でこの方法を用いると緩勾配条件での結果を再現できなかった。そこで,粒子法の分割計算領域毎にこの方法を適用したところ,勾配に関わらず実験結果を概ね再現可能となった。 以上より,本研究では,土石流の発生・発達領域である源頭部の不飽和堆積層における土石流の挙動が,土石流規模の急激な増大に大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。このような現象に対して,粒子法による評価手法の構築を行った。既存の土石流モデルに不飽和浸透モデルを導入し,体積保存則を満たすための粒子消去法を厳密に設定することで,不飽和堆積層上の複雑な土石流の挙動を再現可能な計算手法を確立した。
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