研究課題/領域番号 |
16K16376
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
桂 真也 北海道大学, 農学研究院, 助教 (40504220)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 土砂災害警戒情報 / 融雪 |
研究実績の概要 |
土砂災害発生の危険度が高まったときに,対象となる市町村を特定して警戒を呼びかけるため,土砂災害警戒情報が発表されている。現状では雨量データのみを用いて発表されており,融雪水の影響が考慮されていないため,地すべりが土砂災害警戒情報の対象現象となっていない,融雪に起因する土砂災害に対する避難の判断が困難であるといった大きな問題が生じている。本研究では,土砂災害警戒情報への応用を見据えた融雪水量推定手法を開発した上で,融雪の影響を加味した土砂災害警戒情報の提供システムを開発することを目的とする。 本年度は,昨年度に引き続き,土砂災害警戒情報に適した融雪水量推定手法の開発と開発した手法の妥当性の検証を行った。昨年度開発したモデルに,受水口付近の気流の乱れに伴う雨量計の捕捉率を考慮した降水量の補正を加えることで,積雪水量の推定精度を向上させることができた。また,これに関連して,融雪に起因する地すべりや崩壊は地下水位の上昇により発生するため,開発したモデルにより推定された融雪水量の経時変化を用いて地下水位の変動を再現できるかを確認する必要がある。そこで,北海道の地すべり地において地下水位の計測を行い,融雪を考慮した実効雨量法により地下水位変動の再現を試みたところ,精度よく再現できることが確認された。 また,融雪水の影響を組み込んだ土砂災害警戒情報の発表手順を提案した。現行では降雨量のみから計算される土壌雨量指数と60分間積算雨量を,降雨量と融雪水量の合算値から計算する方法に改め,それ以外は現行の方法を踏襲することとした。 さらに,既往の融雪に伴う土砂災害の発生事例を収集した。その結果,1947年から2017年に北海道から富山県にかけて発生した28事例を収集することができた。いずれも発生場所と日時を特定できるものである。地すべりが大半を占めるが,土石流や崩壊の事例も含まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,[1]土砂災害警戒情報に適した融雪水量推定手法の開発と開発した手法の妥当性の検証(昨年度からの継続),[2]融雪水の影響を組み込んだ土砂災害警戒情報の発表手順の提案,および[3]既往の融雪に伴う土砂災害の発生事例の収集を計画していた。このうち,[1]については,昨年度開発したモデルに,受水口付近の気流の乱れに伴う雨量計の捕捉率を考慮した降水量の補正を加えることで,積雪水量の推定精度を向上させることができた。また,[1]に関連して,融雪に起因する地すべりや崩壊は地下水位の上昇に伴い発生するため,開発したモデルにより推定された融雪水量の経時変化を用いて地下水位の変動を再現できるかを確認する必要がある。そこで,北海道の地すべり地において地下水位の計測を行い,融雪を考慮した実効雨量法により地下水位変動の再現を試みたところ,精度よく再現できることが確認された。 [2]については,現行の土砂災害警戒情報の発表手順をなるべく踏襲しつつ,融雪水の影響を組み込む方法を提案した。すなわち,現行では降雨量のみから計算される土壌雨量指数と60分間積算雨量を,降雨量と融雪水量の合算値から計算する方法に改め,それ以外は現行の方法を踏襲する。なお,現行の手法で用いられる各5kmメッシュの中にはさまざまな標高帯が含まれるため,融雪の状況も1つのメッシュの中で大きく異なることが想定される。そのため,融雪水量を求める際は,安全側を考慮して,人家が存在する標高帯のうち,融雪が最も活発に発生している標高における値を都度採用することが望ましいと考えられる。 [3]については,文献調査により,1947年から2017年に北海道から富山県にかけて発生した28事例を収集することができた。いずれも発生場所と日時を特定できるものである。地すべりが大半を占めるが,土石流や崩壊の事例も含まれる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでの進捗状況を踏まえ,[1]の融雪水量推定手法のさらなる改良に取り組む。現状では,融雪水量を求めるための係数を観測地点ごとに事後的に求めており,昨年度からの課題となっている。この係数は場所,時期によって変化することが知られているが,変化する原因を踏まえ,任意の場所,時期について,事前に最適な係数を求める方法に改めることを目指すとともに,全般的にさらなる精度の向上を目指す。 また,本年度に引き続き,[3]既往の融雪に伴う土砂災害の発生事例の収集に取り組む。これについては,今後新たに発生するものを中心に,引き続き事例の収集に努める。 さらに,[4]本研究で提案した土砂災害警戒情報の発表手法の妥当性の評価に取り組む。これについては,[3]で収集した各事例に即して,[2]で提案した手順に従って土砂災害警戒情報を発表したと仮定した場合の精度を検証する。精度の指標としては的中率(土砂災害警戒情報が発表されたときに実際に土砂災害が発生した割合)と捕捉率(土砂災害が発生したときに土砂災害警戒情報が発表されていた割合)が考えられるが,避難を判断するための情報という土砂災害警戒情報の位置づけを考慮すると,捕捉率がより重要と考えられる。そこで本研究では捕捉率に着目し,現状の土砂災害警戒情報の捕捉率である75%程度を目標に設定する。捕捉率がこれより大幅に低い場合は原因を究明し,[1]や[2]の手法に改良を加えて再検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため,少額ながら次年度使用額が生じた。研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め,当初の計画通りに研究を進めていく予定である。次年度は,今年度に引き続き現地観測と成果発表のための学会参加を予定している。今年度生じた次年度使用額はそれらに充当する計画である。
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