土砂災害発生の危険度が高まったときに,対象となる市町村を特定して警戒を呼びかけるため,土砂災害警戒情報が発表されている。現状では雨量データのみを用いて発表されており,融雪水の影響が考慮されていないため,地すべりが警戒情報の対象現象となっていない,融雪に起因する土砂災害に対する避難の判断が困難であるといった大きな問題が生じている。本研究では,警戒情報への応用を見据えた融雪水量推定手法を開発した上で,融雪の影響を加味した警戒情報の提供システムを開発することを目的とする。 本年度は,昨年度に引き続き,既往の融雪に伴う土砂災害の発生事例を収集した。新たに収集した事例を加える一方で,災害発生時の気象データを入手できる事例に絞り込みを行った結果,14事例を以下の解析に用いることとした。地すべりが大半を占めるが,土石流や崩壊の事例も含まれる。 これら14事例に対して,昨年度提案した手順に従って警戒情報を発表した場合の精度を検証した。融雪水量を求めるための係数は,既往の積雪水量観測データの解析結果から0.195 mm/℃/hrとした。その結果,14事例とも災害発生時に警戒情報の発表基準線(CL)を超過していなかった。このような結果となった理由として以下の2点が挙げられる。1点目は,地すべりに対する警戒情報の適用性である。融雪による土砂災害は地すべりが多いが,現行の警戒情報は地すべりを対象としていないため,発表の際に用いられている指標や現在設定されているCLが地すべりには適していない可能性がある。2点目は,融雪水量の推定精度である。本研究では全国的に融雪水量を計算するため,降水量と気温のみから計算できる簡易なモデルを採用したが,融雪に最も影響を与える日射の影響を考慮できていないなど,精度がまだまだ不十分な可能性が高い。今後はこうした点を改善していく必要があることが分かった。
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