再帰的に起こり持続性のある大規模な大気の流れを「天候レジーム」と呼ぶ。本研究は、天候レジームの再帰性・持続性により引き起こされる大気顕著現象 (熱波・寒波など)の予測可能性を、様々な時間スケールの現業アンサンブル予報データにより調査し、顕著現象による被害の低減に貢献することを目指した。夏季欧州域における天候レジームと熱波の関係、および、それらの予測可能性について調査した。夏季欧州の天候レジームは8種類検出され、そのうちの6つが欧州各地の熱波(スカンジナビア、北西/中央/東ヨーロッパ、地中海、英国/フランス)に関連していた。このうち、2003年8月に発生したような英国/フランス熱波が最も予測可能性が低く、地中海熱波が最も予測可能性が高いことがわかった。また、欧州、日本、米国の現業中期アンサンブル予報データ、および、欧州中期予報センター(ECMWF)簡易版数値予報(OpenIFS)モデルを用いて、2018年7月上旬に日本列島で発生した豪雨(平成30年7月豪雨)の予測可能性について調査した。この豪雨は、日本列島が異常に発達した北太平洋高気圧と列島北側の高気圧リッジに挟まれたことで、熱帯からの水蒸気が西日本に集中して流入したことで引き起こされた。現業アンサンブル予報によると、この7月5日の豪雨イベントは少なくとも5日前から予測可能であったことが分かった。米国のアンサンブル予報はもっとも早い7日前から発生を予測していたため、米国のアンサンブル予報の初期値を用いてOpenIFSモデルによる予報実験を行った。実験結果は欧州の予報と変わらず5日前からのみ豪雨を予測していた。このことは、この豪雨イベントの予報改善には、初期値の改善よりもむしろ予報モデルの改善が必要であることを示している。
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