土砂災害の崩壊地では,滑落部には地下水の流れた跡であるパイピングホールが確認されることが多く,豪雨時のパイプ流による過剰間隙水圧の発生が斜面崩壊の一因であると指摘されている。本研究は,モニタリング計測によってパイプ流の観測が可能か,またその影響について検証することを目的とする。 自然斜面での降雨時の斜面内水分動態の観測を目的として屋外計測を実施した。屋外計測は,まず選定した集水エリアに80 cm間隔9つの計測地点を設定し,簡易動的コーン貫入試験によって地中内の地層境界を把握した。その地層境界を参考に,1地点3から5深度,計32箇所の水分・水位計測を行った。計測期間中38の降雨イベントが観測されたが,地下水の発生に至るほどの豪雨は観測されなかったため,土中水分量の変化量によって考察を行った。その結果,各地点,各層の水分変化傾向は様々で,全ての地点において上部からの浸透によって,浅い地点から水分量が上昇するわけではなく,高強度の降雨にのみ反応を示す地点が確認された。このような変化の要因は,自然状態の斜面の不均一性や背面地山の水門環境,植生の影響等が複雑に関係しており,本実験のサイトでは高密度の計測であっても水の流れの把握は一義的には推定できないことがわかった。 そこで,地盤モデルを単純化した室内実験を実施した。計測位置の違いによるパイプ流の影響について考察するため,モデル斜面内にパイプ流を模擬し,降雨量,配置を変えて計6ケースの検証を行った。その結果,常時はパイプ流があることで,排水効果が生まれ斜面が安定するが,パイプが閉塞した場合には,斜面内に排水していた地下水が溢れ,斜面を急激に不安定かさせることがわかった。また,パイプ流に近いほど常時の地下水が低く,逆に閉塞時には地下水が高いことが計測機器によって観測された。
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