研究実績の概要 |
本研究では、生体の薬物応答を再現するBody-on-a-chipの構築に向け、各臓器を結ぶための血管網を構築する。これにより、従来の人工的な管路では実現出来なかった、血管による選択的な臓器間の物質授受、臓器の時空間的な要求に基づく、ライフライン(血管)の整備が期待できる。血管網で結ばれた臓器モデルを、一枚のチップに集積することで、生体内に類似した臓器間の相互作用が再現されるため、創薬研究や再生医療への応用を示す。 平成28年度に開発した、肺の間質組織内への血管網の構築技術(Integrative Biology, 9, 506, 2017, JoVE, e57242, 2018)を元に,平成29年度では、がん組織内の血管網の構築技術を開発した。平成30年度では,構築した血管網を利用した,長期灌流培養により,血流を模したフローが,癌細胞に与える影響に関して,組織切片,および組織切片の免疫染色により,評価した.その結果,連続的なフローにより,癌細胞の増殖活性が有意に上昇することを確認した.このことは,生体内の腫瘍組織が,血流により栄養を得,その悪性度を維持,上昇させることを模しているといえ,血流の影響を考慮に入れた,腫瘍モデルの構築に成功したと言える.構築した腫瘍モデルを用いて,抗がん剤の試験を行った結果,血流を模したフローの有り,無しの違いにより,薬剤効果に相違があることを確認した.具体的には,フローが無い場合に確認できていた,濃度依存的な薬剤効果が,フローがある場合には確認できなかった.このことは,フローによる酸素・栄養の供給効果により,薬剤効果が変化してしまうことを示唆しており,薬剤効果の検証において,フローの影響を考慮に入れることの重要性を示している.
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