体外循環装置を用いた治療法(補助人工心臓、人工透析、人工心肺装置)における血液の凝固が大きな問題である。この問題の対策として、凝固リスクを調べ、抗凝固処置を行う必要がある。リスクを調べる一般的方法は、循環流路から血液を取り出し、活性化剤と混ぜて凝固するまでの時間を計測する単純な方法である。これらの方法では、一回の凝固リスク評価に数分かかり、最適な抗凝固薬投与量および投与タイミングを判断することが困難である。従って、本研究は電気信号法で計測できるバイオマーカによってリアルタイムで凝固リスクを調べる方法を確立することを目的とした。 そこで、分子バイオマーカとして、凝固リスクの異なる血液における代謝物質の状況変動の解析を行い、血液凝固と関連する代謝物質を予測し、文献マイニングおよび代謝物質経路データベースによって検証した。生化学と生物物理的パラメータを調整できる数理モデルを用いて血液成分の変動、赤血球の配向と変形にもとづく電気信号の変動を求めた。多数周波数による電気的パラメータを計測し、血液凝固のバイオマーカの変動を調べることができ、血液凝固リスクをリアルタイムで計測可能にする方法を確立した。最終年度では、静止状態および血液ポンプを用いた流動中の血液で血栓実験を行い、センサーおよびアルゴリズムから構成される全体システムによって同方法の検証を行った。 本研究の特色と独創的な点は、本研究が生化学情報処理、生物物理と電気信号処理のノウハウを踏まえたシステムバイオロジーにおける意思決定支援システムの新しいアプローチである点にある。本研究の成果は、医療現場における血液凝固の管理を可能とする画期的なシステムにつながり、血液の状況をリアルタイムで計測し、血液体外循環装置を利用する患者の自宅や病室、手術室など様々な医療現場で抗凝固処置を最適に行うことができるようになると考えられる。
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