研究課題/領域番号 |
16K16398
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉冨 徹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20585799)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / 再生医療 / 酸化ストレス / 間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
脊髄損傷は、これまで有効な治療法が存在しなかったが、近年、神経幹細胞移植が失われた機能の回復に有効であることが報告され、注目を集めている。しかしながら、損傷部位における炎症・酸化ストレスが幹細胞に影響を与えることから、本研究では酸化ストレス抑制剤の開発およびストレス下での幹細胞の挙動について調べている。本年度は、物理刺激に対する幹細胞の分化についての研究を進めた。はじめに、誘電泳動デバイスを用いて間葉系幹細胞に対して物理刺激を与えることで、分化挙動がどのように変化するのかを調べた。この誘電泳動デバイスを用いることで、流路内の細胞を電界強度の強い方向に移動させたり(正の誘電泳動),電界強度の弱い方向に移動させたりすることができ(負の誘電泳動)、細胞を電極に押し付け、物理的な刺激を与えることができる。本研究では、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞株UE7T-13細胞に正の誘電泳動をかけたところ、骨芽分化および神経分化に関わる遺伝子の発現が抑制され、脂肪分化に向かうことが明らかとなった。また別の実験では、ポリエチレングリコールゲルがコーテイングされたマイクロパターンデバイスを用いて、細胞積層が細胞の分化に与える影響についても調べた。ヒト脂肪細胞由来間葉系幹細胞を積層させることにより、脂肪分化が抑制され、骨芽分化が促進することが確認された。これまで、二次元培養では、高密度の時に幹細胞は脂肪細胞に分化することが知られていたが、今回用いた三次元培養の実験では、二次元培養とは反対の興味深い結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、細胞に物理刺激を加えたり、細胞周辺の環境を変えることにより幹細胞の分化の方向が変化することが明らかとなり、この点に関しては、当初の計画以上に研究が進展した。また酸化ストレス抑制剤の開発に関しては、当初の予定とは多少異なるが、イオントフォレシスを用いて活性酸素を消去するナノ粒子を経皮投与することで、ナノ粒子が表皮に蓄積し、UV照射により惹起されるメラニン産生を抑制することに関する論文を発表した。この研究から、合成ポリマーを経皮投与を経て、組織下に蓄積させる知見を得た。しかしながら、抗酸化能を有する新規高分子材料の開発と評価についての実験に関しては、当初の予定よりも多少遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、引き続きメカノストレスや細胞周囲の環境が幹細胞の分化に与える影響等について調べていく。現在は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞株やヒト脂肪細胞由来間葉系幹細胞を用いているが、今後、神経幹細胞などを用いることにより今後、脊髄損傷治療への有用な知見が得られると考えている。また一方で、当初の計画していたポリマーの合成と評価に関しては引き続き実験を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度は、物品費に関しては、当初の予定通り使用したが、旅費及び謝金の使用額が少なかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度に、様々な生物学的評価のための物品を購入する予定であるため、その予算にあてる。
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