近年、脊髄損傷治療のための骨髄系間葉系幹細胞の移植が注目を集めている。従来の方法は、血液中に間葉系幹細胞を静脈注射する方法が行われていたが、その効果を高めるため、本研究では、損傷部位に幹細胞を直接移植するためのペプチドナノファイバーゲル足場材料の開発を目指した。疎水性相互作用を駆動力とする自己組織化ペプチドナノファイバーゲルは、自己組織化直後にはゾル状態であるため、幹細胞を懸濁し、損傷部位に注射すると、ファイバー表層にあるシステイン同士が炎症環境で生じた活性酸素と反応しジスルフィド結合を形成することでゲル化する可能性がある。またナノファイバー表層に存在するシステインは、ジスルフィドを形成することで、ゲルの構造安定化に寄与するだけでなく、活性酸素を消去することで幹細胞を保護し、周囲の炎症も抑えることが期待できる。本研究では、L体とD体のアミノ酸からなるFmoc-FFCペプチドナノファイバーゲルに骨髄系の間葉系幹細胞を封入し、ゲル内での細胞の分化状態について調べた。その結果、幹細胞はL体のペプチドナノファイバーゲル内でよく増殖し、また細胞が伸展していることを確認した。その結果、L体のペプチドナノファイバーゲル内では、脂肪・神経・骨髄細胞への分化が起きやすく、一方、D体のペプチドナノファイバーゲル内では、未分化状態が維持されやすいことを見出した。本研究成果は、ペプチドナノファイバーの異性体の制御を行うことにより、移植後の間葉系幹細胞の分化・未分化状態を制御できる可能性を示唆する。
|