本研究課題は、生体のMRI画像が持つ統計的な性質と、臨床で診断をする医師の知見を統合して利用することにより医師をサポートすることを目的として進めた。MRI画像は生体内の組織構造を反映したコントラストを持っている。医師の頭の中には、正常な組織構造を写した画像についてのデータベースが長年の臨床経験から構築されており、コントラストが正常からどのように外れると異常であるかを瞬時に判断していると考えられる。組織の異常は輝度値情報に反映されるが、コンピュータが輝度値情報のみに基づいて異常を検出することは、生体の持つ個体差により非常に困難である。本研究課題では、MRI画像の輝度値情報からコンピュータが異常を検出できるように、医師の知見を画像に組み込むことに取り組んだ。 研究期間最終年度である本年度は、昨年度までに開発したボルツマン機械学習およびニューラルネットワークを用いた脳画像のラベリング手法を応用し、ラベリングを行う際に問題となる、MRI装置間での画像輝度値のずれをコンボリューショナルニューラルネットワークによって調整する手法を発展させた。さらに、ニューラルネットワークの最適化に量子ゆらぎの効果を取り入れた確率的勾配法を行うことで、短時間でより最適解に近付くことを実験により示した。また、スパースモデリングを用いた推定についても、MRI装置を用いて取得した生体のスペクトルデータから画像を再構成する手法開発を行った。 これらの結果を国内学会では磁気共鳴医学会、国際学会ではThe International Society for Magnetic Resonance in Medicineおよび7th Adiabatic Quantum Computing Conferenceにて発表した。参加学会では、近い分野の研究者と今後の研究の進捗に寄与する有意義なディスカッションをすることができた。
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