研究課題/領域番号 |
16K16422
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中嶋 理帆 金沢大学, 保健学系, 助教 (60614865)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メンタライジング / 心的状態 / 感情 / グリオーマ / 画像統計解析 / 覚醒下手術 |
研究実績の概要 |
当該年度は,脳腫瘍摘出術を施行した患者122名を対象に,低次のメンタライジングの課題(Reading the mind in the eyes test;RME-test)の結果を後方視的に調査した.低次のメンタライジングとは,他者の心的状態や感情を表情から瞬時に判断する能力のことである. 方法:まず,全ての患者の摘出腔と残存病変のROIを作成した.次いで,どの領域,または神経線維の損傷が低次のメンタライジングと関連しているかを調べるため,以下の3つの画像統計解析を行った.1) Voxel-based lesion symptom (VLSM) analysis: どの領域が検査スコアの低下と関連しているか,空間的な位置を調べる.2) Tract-wise lesion symptom analysis: どの神経線維の損傷が検査スコアの低下と関連しているか,摘出・病変による神経線維損傷の程度との関連を調べる.3) Disconnection analysis: どの神経線維のdisconnectionが検査スコアの成績と関連しているかを調べる.なお,これらの解析はRME-testの全スコア,および項目毎で実施した. 結果:Bonnferoniの補正を考慮した結果,右弓状束の神経線維の摘出,および摘出による神経線維のdisconnectionが低次のメンタライジングの低下と関連していることが明らかになった.一方,VLSM analysisによる,特定の領域の損傷とメンタライジングの関連は見いだされなかった.また,項目毎での解析では,一定の傾向を見いだすことはできなかった.すなわち,心的状態や感情の種類毎の関連する領域や神経線維を見いだすことはできなかった.本研究より,右弓状束が低次のメンタライジングにおいて中心的役割を果たす神経線維であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の研究成果は,現在国際ジャーナルに投稿中である.本研究では,右弓状束が低次のメンタライジングにおいて中心的役割を果たすことが明らかになった.しかし,122名という大きな,かつ統計学的には十分なサンプルデータを用いたにも関わらず,心的状態や感情の種類毎の関連する領域や神経線維を見いだすことはできなかった.この結果は,ネガティブデータではあるが,感情の種類と大脳神経線維の関連の解明において,意義ある結果であったと考える.このため,当初の計画以上に現在は進展している.
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究は,Reading the mind in the eyes testという検査を用い,フランス人を対象として得られた結果である(申請者のサバティカル研修の留学先施設のデータ).今後は,成人版表情認知検査という,日本で主に用いられている検査を用いて,基本的感情と神経線維の関連を調べ,当該年度と同じ結果が得られるかを検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に必要と予想した人件費・謝金が予定より若干少なかったため,残金が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に生じた残金は,主に次年度の人件費・謝金に充てる計画だが,次年度の研究計画の遂行に必要な消耗品,旅費,人件費・謝金と合わせて使用する.
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