わが国では高齢者人口が増加し続け、2025年には超高齢社会に突入すると言われている。その中で「フレイル(虚弱)」が大きな医学的・社会的問題となっており、これは肺癌患者に対する肺切除術にも当てはまる。しかしフレイルが肺癌による肺切除術の経過に与える影響についての報告は非常に少ない。 平成28・29年度は、肺癌による肺切除患者におけるフレイル合併症例の割合、ならびに術後経過にフレイルが与える影響をテーマに検討した。 対象は聖隷三方原病院呼吸器外科において平成28年8月から平成29年12月までに肺切除術を施行した肺癌患者105例(67.3±8.5歳、男:女=61:44)とした。対象者の基礎項目、術前および術後(1週間、1ヶ月)における身体機能、手術関連項目、術後1ヶ月間の身体活動量を調査した。また,厚生労働省の基本チェックリストにて術前フレイルを調査した。加えて、これらの項目について,フレイル群と非フレイル群とで比較検討した。フレイルなし58例,プレフレイル36例,フレイル11例であり、フレイル合併例は全体の10.5%を占め、プレフレイルを含めると全体の44.7%であった。 フレイル群とプレフレイル群、非フレイル群の比較では,フレイル群は統計学的に有意に年齢が高く,身長,術前の筋力(膝伸展筋力・握力),および6分間歩行距離で低値を示していた。一方で、術後におけるリハビリテーション実施期間および在院日数、合併症発症率には有意な差はなかった。 フレイルにおける術後経過に差を認めなかったため、最終年度は術前理学療法介入の効果をフレイルを考慮せず検証した。術前に2週間の呼吸理学療法が実施可能であった17例(年齢71.5±7.9歳)に呼吸器合併症予防の呼吸・自己排痰法、20分のウォーキング、筋力トレーニング指導を外来で実施した。2週間の介入で肺活量と6分間歩行距離で有意な向上を認めた。
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