アルツハイマー病(AD)を代表とする認知症患者に対して行われる非薬物的介入が認知機能にどのような影響を及ぼすのか,その脳内メカニズムについての十分な基礎研究は行われていない.本研究では「習慣的な運動処方」「閉じこもり防止」 という2つの非薬物的介入に焦点を当て,これらの介入がADの認知機能障害に及ぼす影響を調べてきた.現在までに,①ADモデルラットにおいて記憶保持能力低下がみられること,②社会的孤立がADの認知機能障害を増悪させること,③習慣的な自発運動が認知機能を向上させることが予備的実験を通し,分かってきた.これらの結果をつなげる要素として「脳内ストレス応答」に着目し,行動科学,組織・生化学的手法を用いてメカニズムの解明を目指してきた.本研究は,ADモデル動物を用いた基礎的研究であるが,生活環境(社会的孤立)や生活習慣(運動)がADの学習・記憶障害にどのような影響を及ぼすのか,そのメカニズムを明らかにすることで,AD患者やその家族,そして非薬物的介入を行なう様々な専門職が自信を持ってケアやサービスを実施するためのエビデンスを提供できると考えられ,社会的意義も大きいと考える. 2018年に職場が変わったことに伴い,これまでとは実験環境が異なってしまった.行動神経科学の分野において「実験環境の変化」は再実験を意味する.最終年度となる2019年度後半になり実験スペースが確保できる状態になったが,新型コロナウイルス感染拡大に伴い,継続した実験を行うことができなくなってしまった.研究期間内に実験の完全な再開ができなかったのは非常に残念であったが,これまでに準備した環境において当該研究課題を継続し,研究結果を社会に還元することを約束したい.
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