本年度はこれまで測定した変形性膝関節症患者の動作計測データを元に力学的な解析を行い、有効なトレーニング法の検討を行った。運動と力発揮の力学的関係性を明らかにできる筋骨格シミュレーションモデルを用いて歩行速度を制限する要素を検討した結果、大腿四頭筋の筋力不足を大殿筋によって代償し、膝を伸展させる患者では歩行速度が維持されていることがわかった。また、立脚後期には下肢を後方に残すことができる患者ほど足部での蹴り出し効率が高まることも明らかとなった。 これまでに得られた力学的知見は理学療法に大きな意味を持っている。膝関節に疾患を有する患者であっても、他の関節(股関節や足関節)を鍛えることでパフォーマンスが向上することが明確となった。これまで慣習的に行われていた患部外トレーニングは疾患を有する関節の機能を補うのに有効であるといった理学療法治療における科学的根拠を証明することができた。 これまでに得られた知見を元に股関節筋・足関節筋を中心とした患部外の筋力トレーニング効果を検証中である。変形性膝関節症患者を対象として、股関節と足関節の筋力トレーニング群と従来の膝関節筋中心の筋力トレーニング群に被験者をランダムに割り付け、2ヶ月間のトレーニングを実施している最中である。今後はデータ数が集まり次第、公表を予定している。 なお、研究結果は国際雑誌Human Movement Scienceに投稿し、論文が掲載されている。
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