声の途切れやかすれを主症状とし、喉頭に限局したジストニアと考えられている「痙攣性発声障害」は、類似疾患との鑑別が困難で確定診断に時間を要することがある。また音声症状の複雑さから重症度や治療効果に関する標準的な評価方法が確立されていない。本研究課題では、これらの状況を踏まえて、痙攣性発声障害(内転型)の評価アルゴリズムの開発と治療効果の判定・類似疾患との鑑別を目的とした。 評価アルゴリズムの開発については、内転型痙攣性発声障害の音声症状(声のつまり、途切れ、ふるえ、努力性発声)を定量化し、新たに開発したVisual Analog Scale(VAS)を用いた聴覚印象評価と音響分析が痙攣性発声障害の診断を補完する評価法となるのか検証した。その結果、聴覚印象評価は感度91.7%、特異度100%で、音響分析は感度70.8%、特異度100%となり、聴覚印象評価は除外診断と確定診断を補完する評価法として有用であることが示唆された。一方、音響分析は除外診断には適していないことが示唆され、感度の低い要因として視認解析の精度が挙げられる。今後は自動解析によりエラーを除外できる分析ソフトの開発が望まれる。 治療効果の判定と類似疾患との鑑別については、研究期間と治験(ボツリヌストキシン局所注入療法、甲状軟骨形成術Ⅱ型)が重なったこともあり十分な症例数を集積することができなかった。治験が実施された2つの治療法は現在保険適応となり順次治療が再開されているため今後の継続課題として検討を続ける予定である。また2018年10月に行われた第63回日本音声言語医学会総会・学術講演会で「機能性発声障害の診断と治療-耳鼻咽喉科医と言語聴覚士の立場から-」をテーマにシンポジウムが開催され、痙攣性発声障害(内転型)との鑑別に苦慮する過緊張性発声障害の特徴と音声治療の方針について、本研究課題での成果を踏まえて講演を行った。
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