研究実績の概要 |
高次脳機能障害に対し,アトモキセチン(ストラテラ40mg / T)を1T/日で4週間,内服投与し,同時に,毎日1時間,机上課題(末梢課題・迷路課題)および視覚性記憶課題を実施した.その結果,WAIS-III, WMS-R, TMTといった記憶や注意における評価点数の改善を認めた.臨床的にも「日常会話の反応が早くなった」,「自発性が向上した」,「上肢の運動速度が速くなった」などの行動変化がみられた.こうした,改善は,アトモキセチンの4週間の投与が終了したのちも持続した.アトモキセチンは,選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬である.中枢神経系では,橋にある青斑核にノルアドレナリン作動性神経細胞が多く存在し,そこからほぼ脳全域に投射しており,青斑核は海馬,扁桃体,前頭葉を含む大脳皮質全域に,ノルアドレナリン濃度を増やす機能を有していると考えられている.そして,アトモキセチンの内服そのものが脳の可塑性を高めることが,すでに報告されている.しかし,脳損傷後遺症患者を対象としてアトモキセチンを投与し,それが神経症状の回復に与える影響を検討した報告はいまだみられていないが,我々は,アトモキセチン内服併用でのTMSとリハの安全性と有用性をすでに報告しSPECTにおいて全脳における血流改善効果の可能性を報告した.慢性期でありながら,リハの効果を最大限に引き出すために,脳の可塑性を高める目的でアトモキセチンを投与し,高次脳機能障害の改善を認めた.他にも,ドーパミン系,セロトニン系に作用する薬剤でも,実験レベルでは報告が散見される.今後,こうしたneuromodulationに介入する薬剤の臨床研究が望まれ,脳の可塑性を最大限に高めた状態でのリハ提供が重要と考えられる.
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