研究課題/領域番号 |
16K16447
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研究機関 | 健康科学大学 |
研究代表者 |
生友 聖子 健康科学大学, 健康科学部, 助教 (90515884)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 糖尿病性ポリニューロパチー / 運動ニューロン / 横隔神経 / 横隔膜 |
研究実績の概要 |
糖尿病患者における運動耐容能低下のメカニズムの解明は極めて重要な課題であるが、その原因は筋代謝異常にあると考えられ、呼吸機能との関連性については研究がなされなかった。我々は、糖尿病性ポリニューロパチー(DPN)の発症と運動耐容能低下が関連するという既知の事実から、横隔神経のDPNによる呼吸異常が運動耐容能に影響を及ぼしている可能性が高いと考え、これを明らかにすることとした。 まず、我々は、1型糖尿病を発症して12週と22週が経過したラットと同週齢のラットの横隔神経核をトレーサーにて逆行標識し、その細胞数と断面積を計測した。その結果、細胞数では、対照群で約230個、発症から12週後では約237個と変化がなかったのに対し、22週後では約124個と、横隔神経運動ニューロンの個数が半減している様子が観察された。一方、断面積は対照群、糖尿病群のいずれにおいても著変なく、統計学的な有意差を認めなかった。このことから、糖尿病の罹患により横隔神経運動ニューロンの脱落が生じたと考えられる。また、電気生理学的な解析として、横隔膜において単一運動単位電位の測定を行ったが、対照群が約45mVだったのに対して発症22週後には約95mVと、対照群の2倍の大きさを持つ巨大な単一運動単位電位や多峰性の単一運動単位電位が測定された。これらは除神経後の再神経支配筋によくみられる特徴であることから、横隔膜に除神経とその後の再神経支配が生じている可能性が高いと考えられる。 以上より、本研究結果は、横隔膜において横隔神経運動ニューロンの脱落による除神経とその後の再神経支配が生じている可能性を示唆するものである。一般に、再神経支配筋は疲労耐性が低いことから、横隔膜の疲労耐性が低下することで、運動耐用能低下の一因となっている可能性が考えられ、定説を覆し、運動耐用能低下の原因として、新たな問題を提起すものであるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、横隔神経運動ニューロンの形態変化を調べることと、横隔神経の電気生理学的解析を行うことを目的としていた。 このうち、神経伝導速度の測定に関しては、当初、単一運動単位電位の測定と同個体で行なう予定であったが、対象の体力面を考慮し実施を見送っている。そのため、伝導速度の測定については、平成29年度に持ち越している 一方、横隔神経運動ニューロンの逆行標識と単一運動単位電位の測定については、計画通り行うことができ、1型糖尿病モデルラットにおける横隔神経核の脱落と、横隔膜の除神経及び再神経支配について明らかにすることが出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、遅延している神経伝道速度の測定に加えて、計画書で予定していた、横隔膜刺激時の胸腔内圧の測定や、横隔膜の疲労耐性の測定から、横隔膜機能の障害程度を明らかにしていく。神経伝導速度の測定は、胸腔内圧の測定または横隔膜の疲労体制の測定と同時に行なうことで、当初の実験計画で予定していた個体数で研究計画の遂行が可能であると考えている。 また、横隔膜を摘出し、免疫組織化学染色やWestern Blot法によって筋損傷時に発現するタンパクの検出を行う予定である。これについては、当初予定していたFbs32抗体以外の抗体も追加して実験を行なうかを検討中である。 加えて、平成28年度の研究結果に神経伝道速度の測定結果を加えて、平成29年度内に論文の投稿を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入したショーケース型冷蔵庫が、予定していた額よりも安価で購入することができたため。また、運動ニューロンの逆行標識に用いるマーカー類も、当初予定していた額よりも安価で購入できた。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は、Western Blot法や免疫組織化学染色法によるタンパク発現の解析を予定している。そのため、これらの実験において用いるFbx32抗体や、ABCkit等の購入費用にあてる。
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