糖尿病患者における運動耐容能低下は理学療法実施を妨げる因子である。これまでその原因は筋の代謝異常にあると考えられてきたが、私は糖尿病性ニューロパチー(DN)の発症と運動耐容能低下が関連するという既知の事実から、横隔膜を支配する横隔神経がDNに侵されることで呼吸機能が障害され、運動耐容能の低下が生じているのではないかと考えている。平成29、30年度の研究結果からは、横隔神経軸索にDNによる軸索変性が生じている可能性が高いことが示唆された。そこで平成31年度は、1型糖尿病モデルラットの横隔神経に対し電気生理学的解析及び形態学的解析を行うことで軸索変性の有無を明らかにすることとした。 対象には、ストレプトゾトシン誘発型1型糖尿病モデルラットを糖尿病群、同週齢のWistarラットを対照群として用いた。電気生理学的な解析として、対象数が不足していた横隔神経の運動神経伝導速度(MCV)の測定を行った。刺激電極を横隔神経に、記録電極を横隔膜に設置して、導出された誘発電位から横隔神経の運動神経伝導速度を算出した。形態学的解析では、腕神経叢周辺で分岐した横隔神経を摘出してエポン包埋し、薄切してトルイジンブルー染色を行った。得られた染色像を顕微鏡下で観察・撮影し、軸索の数と横断面積の計測を行った。 横隔神経のMCVは、対照群と比べて糖尿病群で有意に低下していた。横隔神経の軸索数もまた、糖尿病群で有意に減少していた。横隔神経軸索の横断面積については、糖尿病群では対照群と比べて大径線維の割合が少なく、小径線維の割合が増加しており、その分布様態は有意に異なっていた。 MCVの低下は神経軸索の変性を鋭敏に反映すること、また、軸索の萎縮や減少はDNによる軸索変性に特徴的に観察される所見であることから、糖尿病群の横隔神経には軸索変性が生じており、その原因はDNである可能性が高いと考えられる。
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