本年度は、仮想現実空間(バーチャルリアリティ:VR)下での脳卒中患者の重心動揺測定を継続して実施した。約40名の測定が終了し、VR刺激により座位および立位姿勢の脳卒中患者の身体重心が麻痺側方向に偏移し、VR刺激が麻痺側荷重量を増大させる可能性が示唆された。脳卒中患者には、重心動揺測定だけではなく、10m歩行試験、Timed Up & Go Test (TUG)、Fugl-Meyer assessment等の身体測定を実施した。VR刺激下での麻痺側方向への重心偏移とTUGの間に相関関係がみられ、VR刺激下での姿勢応答と身体関係の関連性が明らかになりつつある。 健常者を対象としたヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いたVR下での重心動揺測定では、最適な刺激強度を明らかにするため、20deg/s~100deg/sの間で刺激速度を変化させた。VR刺激により重心動揺軌跡長および動揺面積の増大がみられた。また、VR刺激によりSway Vector、左右方向のSway meanも有意に変化し、身体重心の刺激方向への有意な偏移が認められた。特に刺激速度40 deg/sにおいて明らかな変化を示した。40deg/sの刺激速度を用いたVR刺激中の歩行測定では、歩行軌跡が刺激方向に偏移した。加えて、刺激側の立脚時間の延長および刺激側の立脚期荷重量の増大がみられた。脳卒中患者の歩行には、麻痺側立脚時間の短縮、荷重量の低下といった問題が報告されており、本研究にて使用したHMDを用いたVR刺激が脳卒中患者の歩行改善に繋がる可能性が示唆された。今後は、脳卒中患者を対象とし、HMDを用いたVR刺激の静的姿勢および歩行への影響を明らかにしていく予定である。
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