研究課題/領域番号 |
16K16456
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 英明 産業医科大学, 医学部, 助教 (30609201)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シロスタゾール / 抗血小板薬 / 脳卒中後うつ / 遷延性気分障害 / ノルエピネフリントランスポーター / セロトニントランスポーター / アパシー |
研究実績の概要 |
リハビリの臨床場面では脳梗塞後に抑うつ状態やアパシーなどの遷延性気分障害を呈し,リハビリの阻害要因となることが少なくない。これに対する治療の主なものとして抗うつ薬が挙げられるが,傾眠などの副作用が逆にリハビリの阻害要因になることも少なくない。そこで抗うつ薬以外の薬剤として抗血小板薬のシロスタゾールに着目した。シロスタゾールは脳卒中後には再発予防薬として投与されるが、一方でアパシーに対して効果があったとの報告があり,その作用機序の詳細は明らかでない。そこで培養細胞を使用した基礎研究としてノルエピネフリントランスポーター(NET)およびセロトニントランスポーター(SERT)に対するシロスタゾールの効果を検討した。結果はシロスタゾールがNETおよびSERTをともに濃度依存的に抑制しており,実際の臨床濃度ではコントロールの約7割程度の取り込み抑制効果を認めた。抗うつ薬はほぼ10割を抑制するので,培養細胞レベルでは抗うつ薬の作用を弱めた効果を示すことが明らかとなった。シロスタゾールの作用機序の検討として蛍光タンパク質である緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP)をSERTに発現させて遺伝子導入した培養細胞にシロスタゾールを反応させ、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。シロスタゾール投与によりSERTが細胞膜表面から細胞内部へ向かって時間経過とともに転移する様子が観察された。すなわちシロスタゾールが細胞膜表面のSERTの量を減らすことにより、セロトニン再取り込みを抑制したと考えられた。以上の結果より、細胞レベルの検討ではニセルゴリンやシロスタゾールがNETやSERTの機能を抑制しており、この効果が脳卒中後の遷延性気分障害の予防や改善に寄与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロスタゾールがでノルエピネフリントランスポーター(NET)およびセロトニントランスポーター(SERT)機能を抑制することが培養細胞での実験で明らかとなっており,また作用機序の検討では蛍光タンパク質である緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent protein :GFP)をSERTに発現させて遺伝子導入した培養細胞にシロスタゾールを反応させ,共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察したところ,SERTが細胞表面から内部に向かって時間経過とともに転移する様子が観察された。すなわち細胞表面のセロトニントランスポーターの数が細胞表面から減少することにより抑制効果が発揮されていると考えられた.これにより複数の視点から抗血小板薬シロスタゾールがモノアミントランスポーターを抑制することが明らかとなった。動物モデルを用いた研究に関しては実行できておらず,今後検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず培養細胞を用いてノルエピネフリントランスポーター(NET)およびセロトニントランスポーター(SERT)の抑制機序の検討を予定している。シロスタゾールがプロテインカイネースAの活性に関与しているとの報告があり,阻害剤を用いて検討を予定している。またドパミントランスポーター(DAT)に対するシロスタゾールの影響についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬や実験キットの購入を検討していたが,実験の進捗状況に合わせて次年度に繰り越した。細胞実験で使用する消耗品やアイソトープ,試薬,キットの購入,成果発表に使用する予定である。
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