研究実績の概要 |
腎代替療法を必要とする本邦の末期腎不全患者のうち、95%以上は血液透析療法を実施している。慢性血液透析療法を受ける患者数は年々増加し、2018年末の総数は339,841人と報告されている。これは日本国民372.1人に1人が透析患者であることを意味し、台湾に次ぐ世界第2位の高い割合である。透析患者の高齢化は世界的に認められているが、本邦で特に顕著であり、2018年の新規透析導入者の高齢化率は79%と極めて高い。また、近年では、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の重度化に伴う透析導入者が全体の約6割を占める。こうした高齢化の進行、生活習慣病の重度化に加えて、透析患者には低栄養状態の遷延、慢性炎症、代謝性アシドーシス、異化亢進/同化抵抗性、身体不活動および透析療法に伴うアミノ酸の喪失が認められ、これらはフレイルサイクルの形成に寄与し、骨格筋量の喪失、筋力・身体機能の低下やがては日常生活活動障害を引き起こす。数ある因子の中でも、特に血液透析患者における身体不活動は重大である。そこで我々は、多施設共同研究を通じて血液透析患者における身体不活動と有害事象との関連について検証した。 本研究はオープンコホートであり、随時、研究参加施設を増やしている。2019年度には新たな参加施設が加わり、データ収集を開始した。今後も継続して研究規模の拡大を図っていく。2019年度の成果については、国内学会での複数の演題発表に加えて、英語論文の執筆も複数行われた。研究期間全体を通じて、身体不活動が血液透析患者の日常生活への悪影響、入院・死亡リスクの上昇につながることが明らかになった。本研究は、研究論文の発表を通じて、血液透析患者に対する運動指導の重要性を示し、こうした指導管理体制を透析医療のルーチンケアに含めることの必要性を訴えた。
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